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弁護士コラム
Column
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公開日:2020.12.11
企業法務裁判のための企業法務上の備え
弁護士の伊藤崇です。
民事裁判の審理を半年以内で終える特別な訴訟手続の導入が検討されていることはご存知でしょうか。
今回は、万一の裁判のために企業が日常的に行っておくべき備えについて取り上げています。
1.裁判は時間がかかる?
「裁判は時間がかかる」
よく言われることではありますが,ひとたび裁判になると解決までに時間がかかってしまうケースが多いことは事実です。
私の経験からしても裁判になると解決までに1年から1年半以上かかることが多く,事案によっては2年,3年,それ以上かかるものもあります。
民事裁判に長い期間がかかってしまうことは,裁判に踏み切ることを躊躇させる大きな要素の一つで,特に企業においてはその傾向が顕著であるように思います。
民事裁判を早期で終わらせる制度については検討段階であり,制度の詳細は今後決まっていくことになろうかと思いますが,仮にこうした制度が導入されることになれば問題解決の手法の一つとして裁判を選択するケースが増えてくるものと予想されます。
2.審理期間の短縮化が図られている制度
⑴ 労働審判制度
審理期間の短縮が図られている制度として既に導入されているものに「労働審判制度」があります。
残業代請求事案でよく用いられる手続で,3回の期日で事案の解決を図ることを基本とする制度です。
期日が3回しか開かれないのでそれだけでも審理が短期間で終わる設計になっているわけですが,実際上は,1回目の期日で事案の審理をほぼ終えて1回目あるいは2回目から和解交渉に入ることが通常であるため,事案の解決が非常に早く図られる点が大きな特徴になっています。
労働審判制度は、事案の審理にあてられる期日が実質的には1期日のみであることが多く、その所要時間も1時間から1時間半で、あっという間に過ぎてしまいます。ですから、事前準備が不可欠であり、裁判所に詳細な主張を記載した答弁書を事前に提出し、なおかつ、証拠の大半も事前に提出します。
第1回期日には事案の直接の関係者や決裁権者に裁判所に同行していただき、その場で裁判官からの質疑応答がなされます。
裁判官は当事者から事前に提出された書類と第1回期日の質疑応答で事案のおおよその心証をつかみ、それに基づいて和解交渉に入っていくのです。
労働審判制度は短期間で解決するという点において利点はありますが、その分、事前準備が極めて重要になります。
また、企業側からすると諸規定の整備や記録の作成保管がきちんと行われていないと労働審判が起きてから慌てて資料の作成収集をすることになり、労働審判への対応が後手後手に回ってしまいます。
往々にしてこうした場合には良い結果に結びつくことは期待できません。
⑵ 少額訴訟手続
もう一つ審理期間の短縮化を図っている制度に「少額訴訟手続」があります。60万円以下の金銭支払請求に関して利用できる裁判手続です。
少額訴訟手続は原則1回の期日で審理が終了し、その日のうちに判決が言い渡されます。
この手続もスピーディーに判決が出されますが、そのために証拠や証人は第1回期日にすべて提出、同行しておく必要があり、裁判所に提出していない証拠や証人は判決をする上でないものとして扱われます。
裁判官の心証を確認した上で、「別の証拠資料があるので、次の期日までに提出します。」は通用しないのです。
この少額訴訟手続も労働審判制度以上に事前準備が極めて重要になります。
3.万一の裁判に備えて企業が行っておくべき事項
審理の期間が短くなるということは良い側面もある一方で,口約束や当事者の記憶しか証拠がないようなケースでは明確な証拠がないことを根拠に立証不十分として不利な認定がなされやすくなるというマイナスの側面が強くなってしまうことも懸念されます。
事実,労働審判制度では企業側が十分な証拠を残していないために敗訴的和解を余儀なくされるということが多々あります。
審理期間の長短にかかわらず,記録を作成保管しておくことは非常に重要ですが,より一層そうした意識を高めていくことが求められているように思います。
具体的には、
などといった事項に注意して日常的に記録の作成保管を積み重ねいくことが,トラブル発生時に裁判を選択することができるか否かにつながっていきます。
肝心の証拠がなければ裁判を起こしても敗訴するおそれが強く,審理期間が短くなろうともそもそも裁判自体を選択できない,ということになりかねません。
常日頃から上記の備えを意識することは,トラブルの予防にもつながりますし,いざトラブルが発生したときに躊躇なく裁判を選択できる強みにもつながるのです。
以上
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