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公開日:2023.9.29
企業法務【名古屋/知的財産】生成AIと著作権について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「生成AIと著作権」について取り上げます。
1.はじめに
近年、「生成AI」という言葉を聞くようになりました。
生成AIとは、人工知能を使って新しいデータを生成する技術のことをいいます。
生成AIは、入力したデータに基づいてそのパターンを学習し、新しいデータを生成することができ、文章を生成する言語生成AI(ChatGPTなど)、画像を生成する画像生成AI(Midjourneyなど)があります。
生成AIは、学習の過程や新しいデータの生成において、著作物を利用することが多いため、著作権法との関係が議論されてきました。
著作権法の所管官庁である文化庁においても議論が進められており、文化庁が令和5年6月19日に行った令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」では、①AI開発・学習段階と②生成・利用段階に分けて、著作権法との関係を検討すべきことが示唆されています。
2.生成AIの開発と利用の流れ
(1)AI開発・学習段階
↓
という流れで、AIが開発されます。
このうち、①においては、AIに学習させるために収集・複製した学習用データの中に、著作物が含まれていることが多いです(しかも数十億という膨大な量)。
そのため、AIの学習のために、著作物を収集・複製する行為が、その著作物の著作権を侵害しないかどうかが問題となります。
(2)生成・利用段階
↓
という形で、学習済みAIが利用され、画像等が生成されることになります。
③においては、著作物であるデータを入力するに当たって、著作物の複製等が行われるため、その著作物の著作権を侵害しないかどうかが問題となります。
④においては、生成物をアップロードする行為、生成物のコピーを販売する行為が、生成物の元となる著作物の著作権を侵害しないかどうかが問題となります。
3.AI開発・学習段階の著作物の利用
(1)著作権者の個別の許諾なく著作物を利用できる場合
例えば、Webスクレイピング(Webサイトから大量の情報を自動的に抽出するコンピュータソフトウェア技術のこと)によって、Web上の著作物データを収集する場合には、著作物の複製をすることになります。
また、作成した学習用データセットをWeb上に公開すれば、著作物を公衆送信することになります。
他人の著作物を複製したり、公衆送信したりするには、原則として、著作権者の許諾が必要になります。
もっとも、生成AIにおいて、学習用に収集・複製される著作物は数十億単位にもなる膨大な量になりますので、それぞれの著作物について、個別に著作権者に許諾を得るのは不可能と言えます。
また、学習用データを収集・学習する段階では、著作権者への不利益は通常生じません。
そのため、AI技術の利用促進等を図るため、平成30年の著作権法改正によって、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」には、著作権者の許諾を得ることなく著作物を利用することができることになりました。
「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させる」とは、著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為のことです。
具体的には、小説などの言語著作物を閲読すること、プログラムの著作物を実行すること、音楽著作物や映画著作物を鑑賞することなどです。
AI学習のためという情報解析を目的として、著作物を収集・複製したり、公衆送信したりする行為は、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当し、著作権者の許諾なく行うことができます。
(2)著作権者の個別の許諾が必要な場合
「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」であったとしても、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には、著作権者の個別の許諾が必要とされています。
例えば、情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製した場合が、これに該当します。
情報解析用に販売されているデータベースの著作物は、著作権者にライセンス料などの対価を支払い、著作権者がその利用を許諾することができるビジネスモデルですので、この著作物を著作権者の許諾なしに利用できてしまうと、著作権者の利益を不当に害することになるからです。
4.生成・利用段階の著作物の利用
(1)著作権者の個別の許諾が必要な場合
例えば、AIを利用して画像等を生成する際に、学習済みのAIに入力する著作物をサーバーに保存する行為は、著作物の複製に該当します。
また、既存著作物を含む生成物をサーバーやPC上に保存する行為は、著作物の複製又は翻案に該当します。
既存の著作物を基にして、既存の著作物と同一のものを生成する場合が複製で、既存の著作物を基にして、既存の著作物と類似のものを生成する場合が翻案です。
複製・翻案に該当する場合は、原則として、著作権者の個別の許諾が必要です。
(2)著作権者の個別の許諾なく著作物を利用できる場合
例えば、AIが生成した生成物が既存の著作物と同一又は類似であると認められない場合や既存の著作物を知らずに独自に創作したものである場合には、複製・翻案に該当しません(著作権侵害にならない)ので、そもそも著作権者の個別の許諾は必要ありません。
また、複製・翻案が、私的使用目的で行われる場合には、著作権法の規定によって、著作権者の個別の許諾なく利用することができます。
(3)著作権者の個別の許諾が必要な場合
例えば、生成物をWEB上にアップロードする行為は、著作物の公衆送信に該当します。
また、イラスト集として生成物のコピーを販売する行為は、著作物の複製物の譲渡に該当します。
公衆送信・著作物の複製物の譲渡に該当する場合は、原則として、著作権者の個別の許諾が必要です。
公衆送信・著作物の複製物の譲渡の場合、私的使用目的の場合であっても、著作権者の個別の許諾が必要です。
(4)著作権侵害の主体
AIが生成した画像等について、著作権侵害となるかどうかの判断は、人がAIを利用せずにその画像等を作成した場合と同様の基準で行われます。
AIの利用者が、筆という手段で絵を描いたのか、AIという手段で画像を生成したのかの違いにすぎないからです。
そのため、AIの利用者が著作権侵害の主体となります(AIが著作権侵害をしているわけではありません)。
5.おわりに
企業活動においてもAIの利用は今後ますます増えていくものと思われます。
その際、AIと著作権の関係について正しく理解していないと著作権者から差止めや損害賠償請求を受けるリスクがあります。
もし、著作権のことでお困りの場合には、弁護士までご相談ください。
以上
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