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弁護士コラム
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公開日:2023.11.30
企業法務【名古屋/知的財産】限定提供データの保護(不正競争防止法)について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「限定提供データの保護(不正競争防止法)」について取り上げます。
1.不正競争防止法とは
不正競争防止法とは、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」法律です。
不正競争防止法では、不正競争行為として以下の10の類型を規定し、不正競争行為を行った者に対しては、差止めの請求や損害賠償の請求、信用回復の措置を求めることができ、不正競争行為の内容によっては刑事罰(限定提供データについては刑事罰の定めはありません)も科されます。
<不正競争行為の類型>
①周知な商品等表示の混同惹起
(弁護士コラム「周知又は著名な商品等表示への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
②著名な商品等表示の冒用
(弁護士コラム「周知又は著名な商品等表示への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
③他人の商品形態を模倣した商品の提供
(弁護士コラム「商品形態の模倣への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
④営業秘密の侵害
(弁護士コラム「営業秘密の保護(不正競争防止法)」を参照ください)
⑤限定提供データの不正取得等
⑥技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供
(弁護士コラム「技術的制限手段無効化等の提供行為への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
⑦ドメイン名の不正取得等
⑧商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示
(弁護士コラム「誤認惹起表示への規制」を参照ください)
⑨信用棄損行為
⑩代理人等の商標冒用
今回は、「⑤限定提供データの不正取得等」に焦点を当ててみます。
2.限定提供データとは
限定データとは、簡単に言うと、地図データ、消費動向データ、気象データなどのビッグデータのことを指します。
詳しく言いますと、不正競争防止法で、「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)」と定義されている情報のことです。
したがって、 限定提供データに該当するためには、①限定提供性(業として特定の者に提供されること)、②相当蓄積性(電磁的方法により相当量蓄積されていること)、③電磁的管理性(電磁的方法に管理されていること)という3つの要件を満たす技術上又は営業上の情報であることが必要です。
この3つの要件に関しては、経済産業省が公表している「限定提供データに関する指針」(最終改定:令和4年5月)が参考になります。
なお、弁護士コラム「デジタル化に伴うブランド・デザイン等の保護強化について」でお伝えした令和5年6月7日成立の不正競争防止法等の一部を改正する法律において、「秘密として管理されているものを除く。」という部分は、「営業秘密を除く。」に変更され、 秘密として管理され、公然と知られているビッグデータも限定提供データに該当することになりました。
(1) 限定提供性
限定提供データと言えるためには、データが
業として特定の者に提供されていることが必要です。
「業として」とは、反復継続してデータ提供を行っていることを指し、「特定の者」とは一定の条件の下でデータ提供を受ける者を指します。
したがって、会員制のデータ提供システムにおいて提供されるデータなどは限定提供性があります。
そのため、 会員制ではなく、相手方を特定・限定せずに無償で広く提供されているデータは「一定の条件の下で」という要件を満たしませんので、限定提供データに該当しません。
(2) 相当蓄積性
限定提供データと言えるためには、データが電磁的方法(コンピュータを使用して電子的に処理する方法)によって相当量蓄積されることによって価値を有する情報であることが必要です。
相当量蓄積されているかどうかは、個々のデータの性質によって判断されることになり、その判断に当たっては、当該データが電磁的方法により蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性、取引価格、収集・解析に当たって投じられた労力・時間・費用等が考慮されます。
「限定データに関する指針」では、以下の場合には、原則として「相当蓄積性」を満たすと考えられています。
◆携帯電話の位置情報を全国エリアで蓄積している事業者が、特定エリア単位で抽出し販売している場合、その特定エリア分のデータについても、電磁的方法により蓄積されていることによって取引上の価値を有していると考えられるデータ
◆自動車の走行履歴に基づいて作られるデータベースについて、実際は当該データベースを全体として提供しており、そのうちの一部を抽出して提供することはしていない場合であっても、電磁的方法により蓄積されることによって価値が生じている一部分のデータ
◆大量に蓄積している過去の気象データから、労力・時間・費用等を投じて台風に関するデータを抽出・解析することで、特定地域の台風に関する傾向をまとめたデータ
◆分析・解析に、労力・時間・費用等を投じて作成した特定のプログラムを実行させるために必要なデータの集合物
(3) 電磁的管理性
限定提供データと言えるためには、 データが電磁的方法によって管理されていることが必要です。
「管理されている」とは、特定の者に対してのみ提供するものとして管理する保有者の意思が、外部に対して明確化されていることを指します。
具体的には、ID・パスワード、ICカードや特定の端末、トークン、生体認証などによってデータへのアクセスを制限(ユーザー認証)する技術が施されている必要があります。
また、専用回線による伝送も、アスセスを制限する技術に該当すると考えられています。
「限定データに関する指針」では、以下の場合には、原則として「電磁的管理性」を 満たすと考えられています。
◆ID・パスワードを用いたユーザー認証によるアクセス制限
◆ID・パスワード and/or 指紋認証 and/or 顔認証等の複数の認証技術を用いたユーザー認証によるアクセス制限
◆データを暗号化した上で、顔認証技術を用いたユーザー認証によってアクセスを制限する方法
◆VPNを使用し、ID・パスワードによるユーザー認証によってアクセスを制限する方法
◆初期にID・パスワード設定によるアクセス制限が行われたうえ、以後はセンサー間でリアルタイムにデータの授受が行われる場合
反対に、「限定データに関する指針」では、以下の場合には、原則として「電磁的管理性」を 満たさないと考えられています。
◆DVDで提供されているデータについて、当該データの閲覧はできるが、コピーができないような措置が施されている場合(閲覧については、アクセス制限がかけられていないため)
◆データの提供を希望する者が当該データを受け取るためには、他の作業をなすこともある部屋に設置されたPCに物理的にアクセスする必要がある場合に、データ自体には電磁的な管理がされておらず、当該部屋への出入りのみを電磁的に管理している場合(当該データ専用の電磁的なアクセス制限がかけられていないため)
3.限定提供データの侵害
限定提供データの侵害に関する不正競争行為は、①アクセス権限のない者からの取得等、②アクセス権限のある者から取得したデータの使用・開示という2つの類型に分けられます。
(1) アクセス権限のない者からの取得等
●正当な情報取得権限がない者が、窃取、詐欺、強迫その他の不正な手段により限定提供データを取得する行為(不正取得行為)は、不正競争となります。
限定提供データ → 不正な手段を用いて取得する行為
●不正取得行為によって取得した限定提供データを使用し、又は開示したりする行為も不正競争となります。
不正取得によって取得された限定提供データ → 使用、開示する行為
●限定提供データの不正取得行為が介在したことを知りながら(悪意)、限定提供データを取得する行為は、不正競争となります。
不正取得によって取得された限定提供データ → 不正取得について悪意での取得行為
●限定提供データの不正取得行為が介在したことを知りながら(悪意)取得した限定提供データを、使用し、又は開示する行為は、不正競争となります。
不正取得について悪意で取得した限定提供データ → 使用、開示する行為
●限定提供データの不正取得行為が介在したことについて知らなかった場合であっても、取得後、悪意となった場合において、限定提供データを使用し、又は開示する行為は、不正競争となります。
不正取得の介在によって取得された限定提供データ → 取得後、不正取得の介在について悪意での使用、開示行為
「限定データに関する指針」では、以下の場合には、原則として「不正取得」に 当たると考えられています。
◆データが保存されたUSBメモリを盗む行為
◆データ保有者の施設に侵入して、データを紙にプリントアウトして、又は、自らのUSBメモリにコピーして保存し、持ち去る行為
◆正当なデータ受領者を装い、データ保有者に対して、データを自己の管理するサーバに格納するよう指示するメールを送信し、権限のある者からのメールであると誤解したデータ保有者に自己のサーバにデータを格納させる行為
◆データ保有者にコンピュータ・ウイルスを送り付けて、同社管理の非公開のサーバに保存されているデータを抜き取る行為
◆他社製品との技術的な相互互換性等を研究する過程で、自社製品の作動を確認するために当該他社のパソコンにネットワークを介して無断で入り込んで操作し、パスワードを無効化してデータを取得する行為
◆データにアクセスする正当な権原があるかのように装い、データのアクセスのためのパスワードを無断で入手し、データを取得する行為
反対に、「限定データに関する指針」では、以下の場合には、原則として「不正取得」に 当たらないと考えられています。
◆ゲーム機の修理業者が、ゲーム機や端末の保守・修理・交換の過程でその機器に保存されているプロテクトの施された限定提供データを必要な範囲でバックアップし、修理等の後にまた元に戻せるように、不正アクセス禁止法に抵触しない方法でプロテクトを解除する行為
◆他社製品との技術的な相互互換性等を研究する過程で、市場で購入した当該他社製品の作動を確認するため、ネットワークにつなぐことなく、不正アクセス禁止法に抵触しない方法で当該製品のプロテクトを解除し、必要な範囲で限定提供データを取得する行為
◆特定者向けに暗号化されたデータが蓄積されているサーバの滅失のおそれ(ウイルス汚染、水没等の危険)が生じ、サーバ運営者とデータ保有者が異なる場合にサーバ運営者が、データ保有者の事前の承諾なく緊急的に、その暗号鍵を解除し、他のサーバにバックアップを取る行為
◆ウイルスが混入しているなどデータ自体が有害である可能性が生じた場合に、その確認及び対策を講じる必要から、データ保有者の許可を得ずに限定提供データの取得を行う行為
◆商品の3D形状に関するデータが限定提供データであるケースにおいて、そのデータを用いて3Dプリンタで製造した商品が販売されている場合、その商品を購入した者が3Dスキャナで商品を計測して形状データを取得する行為
(2) アクセス権限のある者から取得したデータの使用・開示
●限定提供データを保有する事業者(保有者)からその限定提供データを示された者が、不正の利益を得る目的(図利目的)又はその保有者に損害を加える目的(加害目的)で、その営業秘密を使用し(その限定提供データの管理に係る任務に違反して行うもの)、又は開示する行為は、不正競争となります。
保有者 → 限定提供データ → 図利、加害目的で使用(任務違反に限定)、開示する行為
●その限定提供データについて不正開示行為(図利、加害目的での開示行為)であること、又はその限定提供データの不正開示行為が介在したことを知りながら(悪意)、限定提供データを取得する行為は、不正競争となります。
不正開示行為によって取得された限定提供データ → 不正開示行為又はその介在について悪意での取得行為
●不正開示行為又はその介在を知りながら(悪意)取得した限定提供データを使用し、又は開示する行為は、不正競争となります。
不正開示行為又はその介在について悪意で取得した限定提供データ → 使用、開示する行為
●限定提供データの不正開示行為又はその介在について、知らなかった場合であっても、取得後、悪意となった場合において、取引によって取得した権原の範囲を超えて限定提供データを開示する行為は、不正競争となります(使用は不正競争になりません)。
不正開示行為で取得した限定提供データ → 取得後、不正開示行為又はその介在について悪意で開示(取引によって取得した権原の範囲外に限定)する行為
「限定データに関する指針」では、以下の場合には、原則として「図利加害目的」に当たると考えられています。
◆第三者開示禁止と規定されたライセンス契約に基づいて限定提供データを取得した者が、第三者開示禁止であることを認識しつつ、当該データの相当蓄積性を充足する一部を自社のサービスに取り込み、顧客に開示する行為
◆第三者開示禁止と規定されたライセンス契約に基づいて限定提供データを取得した者が、第三者開示禁止であることを認識しつつ、保有者に損害を加える目的で当該データをホームページ上に開示する行為
◆委託された分析業務のみに使用するという条件で取得した限定提供データを、その条件を認識しながら、無断で自社の新製品開発に使用する行為
(3) 適用除外
不正競争に該当する限定提供データの取得、使用、開示であったとしても、その限定提供データが、「無償で公衆に利用可能となっている情報と同一」である場合には、不正競争になりません。
「限定データに関する指針」では、以下の情報が「無償で公衆に利用可能となっている情報」に
当たると考えられています。
政府提供の統計データ
◆地図会社の提供する避難所データ
◆インターネット上で自由に閲覧可能である一方で、引用する場合には、出店を明示することが求められているデータ
◆要望があれば誰でも提供を受けられるデータであり、データの送料等の実費の支払いは必要だが、データ自体について金銭の支払いは求められないデータ
◆インターネット上で自由に閲覧可能であり、運営者は、広告による収入を得ているデータ
◆インターネット上で自由に閲覧可能である一方で、利用後の成果も公衆への利用を可能とすることが求められている学習用データ
また、「限定データに関する指針」では、以下の情報が「無償で公衆に利用可能となっている情報」と「 同一」であると考えられています。
想定するオープンなデータ:政府が提供する統計データ
◆統計データの全部について、何ら加工することなく、そのまま提供している場合
◆統計データの一部又は全部を単純かつ機械的に並び替え(例えば、年次順に並んでいるデータを昇順に並び替えるなど)、あるいは、統計データの一部を単純かつ機械的に切り出し(例えば、平成22年以降のデータのみを抽出するなど)提供している場合
◆統計データと政府がホームページで提供する他のオープンなデータを単純かつ機械的に組み合わせて(例えば、平成29年のGDP成長率と平成30年のGDP成長率のデータを時系列で繋げるなど)提供している場合
4.おわりに
限定提供データの取得、使用、開示が不正競争に該当する場合があります。
限定提供データに関する不正競争は、刑事罰の対象にはなっていませんが、
差止め(取得したデータの廃棄等)や損害賠償請求の対象となります。
判断に迷う場合は、弁護士にご相談ください。
以上
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