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弁護士コラム
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公開日:2023.12.15
企業法務海外企業との紛争解決手段(訴訟・仲裁・調停)や管轄
弁護士法人PROの弁護士の柏木太郎です。
ビジネスのグローバル化が進んでおり、今や多くの企業が海外企業との取引を行っていますが、海外企業との間で紛争が発生することも多いです。
ひとたび紛争が発生すると、紛争解決には多大なリソースを費やすことになってしまいます。
しかし、海外企業との取引における紛争解決手段にはどのようなものがあり、どこで行うのが良いのかを理解し、契約書に適切な紛争解決条項を盛り込んでおくことでリスクをカバーできます。
今回は、海外企業と紛争が生じた場合に執り得る紛争解決手段・管轄地と契約書の記載方法について解説します。
国際取引でお悩みであれば、弊所へお気軽にご相談ください。
1.紛争解決手段の種類
(1)訴訟
裁判所における司法判断です。法理論と証拠に基づき厳格に審理されます。
しかし、各国司法機関の信頼性は要検討です。
詳しくは後述しますが、司法機関(裁判所)を信用できない国もあります。
(2)仲裁
仲裁人を立てたうえで協議を行い、紛争解決を仲裁人の判断に委ねる手段です。
非公開、迅速、相手方がニューヨーク条約加盟国であれば強制執行が容易というメリットがあります。
これらのメリットから、国際取引における紛争解決手段としては仲裁が好まれています。
(3)国際調停
調停人の介在によって和解を目指す手続きです。
和解を目指す“話合い”なので、今後も相手方との関係性を継続したい場合には有効となりえます。
2023年12月現在、国際調停において成立した和解に基づく強制執行を容認するシンガポール調停条約の加盟国は少ないので(日本の加入効力発生日は2024年4月1日)、調停が利用されるケースは少ないです。
もっとも、国際調停には低コスト・迅速・リモート開催が促進されているといった特色があるので、今後は利用件数が増えるかもしれません。
2.管轄地
(1)「日本」はNG?
日本の裁判所で裁判を行いたくなるでしょうが、深く検討することなく管轄地を日本国内にすることはNGです。
日本国内の裁判所で勝訴しても、取引の相手方が所在する海外の国では強制執行できない可能性があります。
強制執行ができないのであれば、勝訴判決は“絵に描いた餅”です。
また、仲裁を日本で行った場合、相手方がニューヨーク条約に加盟していない場合も同じく強制執行できません。
国際取引において、管轄地をどこにするかは非常に重要です。
以下、紛争解決手段に応じた管轄地の考え方をご紹介します。
(2)紛争解決手段を訴訟にする場合
前述のとおり、日本の裁判所の判決に基づいて外国でも強制執行できるとは限りません。
強制執行のターゲットになる相手方の資産が所在する国が、日本の裁判所の判決に基づく強制執行を否定している国(ex中国)や、明確に認めているものでもない国である場合、日本を管轄とするのはNGです。
また、相手方の所在する国もNGです。
相手方の所在する国の裁判所で勝訴すれば、問題なく強制執行できるでしょう。
しかし、特に司法機関が未熟な国では、法理論と証拠が揃っていても地元の企業を利する判決が出されてもおかしくありません。
裁判官に賄賂を渡す風習がある国も存在する程です(Cfトランスペアレンシーインターナショナル「腐敗認識指数」)。
そうでなくとも、相手方のホームが管轄地となりますから、相手方はコストをかけることなく訴訟を提起できるでしょうが、こちらは渡航費等のコストが発生します。
初手で不利な状況に置かれてしまいますから、やはり相手方のホームを管轄地とすることは推奨しません。
そこで、紛争解決手段を訴訟とする場合は、被告地主義(被告の所在する国が管轄)や法整備が整っている第三国(exスイス、シンガポール)を管轄とするのが無難です。
第三国とする場合も、執行の可否は確認する必要があります。
(3)紛争解決手段を仲裁にする場合
仲裁の大きなメリットは、ニューヨーク条約に加盟している国であればどこの国の仲裁機関による仲裁判断であっても強制執行が容易である点です。
したがって、仲裁を選択する場合は、相手方がニューヨーク条約に加盟していることが前提となります。
紛争解決手段を仲裁とする場合は、日本がベスト、相手方の反発があるならば第三国がベターです。
紛争解決手段を仲裁とする場合は、その旨を必ず契約書に記載しましょう。
契約書に記載が無いと、仲裁は行えません。
仲裁機関によってはモデル条項を公開していますので、契約書作成の際には参考にするとよいでしょう(ex 日本商事仲裁協会「仲裁条項の書き方」)。
(4)紛争解決手段を調停にする場合
基本的に、仲裁と同じ考え方が当てはまります。
調停の場合は、相手方がシンガポール調停条約に加盟していることが前提となります。
調停を行うためには、契約書にその旨の記載が必要です。
モデル条項を公開している調停機関もありますので参考にするとよいでしょう(ex 京都国際調停センター「モデル条項」)。
3.まとめ
今回は、海外企業との取引の際の紛争解決手段・管轄地について解説しました。
海外企業との紛争が発生した場合は、紛争解決手段や管轄地の選択によって勝敗や費やすリソース・コストが大きく変わる可能性があります。
契約書作成の段階で予め自社に有利な紛争解決手段・管轄地を定めることができれば、攻めでも守りでもアドバンテージをとることができるでしょう。
海外企業との国際取引に不安を感じている場合は、お気軽に弊所へご相談ください。
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