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公開日:2024.1.19
企業法務海外企業との契約書(英文契約書)におけるテンプレ条項・注意点|その1
弁護士法人PROの弁護士の柏木太郎です。
ビジネスのグローバル化が進んでおり、今や多くの企業が海外企業との取引を行っています。
取引の増加に伴い、海外企業との間で紛争が発生することも増えています。
海外企業との取引においては、国内企業同士の取引よりも更に契約書の重要性が高まります。
海外では英米法の思考(=契約書に書いてあることが全てであり、書いていないことは契約に含まれない)が主流であるため、海外企業と締結する契約書は、分量が多く、かつ、詳細な規定が設けられることが多いです。
今回は、海外企業と締結する契約書に記載されることの多いテンプレ(一般条項)について解説します。
テンプレ条項はどのような類型の取引でも契約書に規定されていることが多いですから、これらのポイントを押さえておくだけでも契約書のチェックを効率的に行えます。
国際取引でお悩みであれば、弊所へお気軽にご相談ください。
1.テンプレ条項(一般条項)とは
どの類型の契約にも同じように規定される条項が、一般条項と呼ばれるものです。日本企業同士の日本語で作成される契約書であれば、裁判管轄や協議事項が一般条項に当たります。
一般条項は契約書の最後に規定されることが多く、英文契約書では、General ProvisionsやMiscellaneousといった標題が付され契約書の最後の方にまとめて規定されることもあります。
一般条項は、数多くの契約書において似たような文言で規定されているため流し読み程度で済まされてしまうこともありますが、どの類型の契約にも同じように規定されるということは、それだけ重要な規定でもあることを意味します。
また、英文契約書の一般条項は日本語契約書のそれよりも分量が多いですから、自社に不利な規定が設けられていないか目を光らせなくてはなりません。
なお、日本語・英語、一般条項・それ以外の条項を問わず、まずチェックするのは主語です。
当事者双方(3者以上の契約書であれば当事者全員)が主語になっている規定は「双務」、当事者の一方のみが主語となっている規定は「片務」です。
特に、「片務」である場合は、どちらか一方のみに義務や責任(または権利)が発生する不平等な規定ですから、修正が必要になる可能性が高いです。
2.英文契約書におけるテンプレ条項の例
(1)譲渡禁止(No Assignment)
事前の合意がない限り、互いの権利義務や契約上の地位を第三者に譲渡してはならないという規定です。日本語の契約書でもよく見る規定です。
一般的には、第三者に権利義務が譲渡されてしまうと取引に支障をきたすでしょうから、双方にとり有益な規定となります。
もっとも、売主や役務提供側(=取引により金銭債権を取得する側)にとっては債権譲渡ができなくなり債権回収の手段の1つを失うことになるので注意しましょう。
英文契約書では、例えば以下のように規定されます。
No Assignment
Neither Party shall assign, sell, pledge, or otherwise transfer any of its rights or obligations under this
Agreement to any third party without the prior written consent of the other Party.
日本語訳
譲渡禁止
当事者は、他方当事者の事前の書面による承諾なき限り、本契約における権利又は義務の一切を、いかなる第三者にも譲渡し、販売し、担保に供し、又はその他の方法により移転してはならない。
(2)不可抗力(Force Majeure)
戦争、災害、疫病など、当時者の能力や努力によってはコントロールできない不可抗力により契約を守れなかった場合に契約違反の責任を負わないこととする規定です。不可抗力免責が「片務」だとアンフェアな契約となってしまいます。相手方が契約書のドラフトを作成している場合、自身(=相手方)にのみ不可抗力免責を認める「片務」とされているケースをしばしば見かけますので注意しましょう。
なお、日本の民法では、金銭債務については不可抗力免責が認められていません(民法419条3項)。
英文契約書では、例えば以下のように規定されます(双務の規定です)。
Force Majeure
Neither Party shall be liable to the other for any delay or failure in the performance of its obligations under
this Agreement if such delay or failure arises from any event beyond the reasonable control of the Party
affected.
日本語訳
不可抗力免責
いずれの当事者も、本契約上の義務の履行に遅滞又は不適合があった場合、当該遅滞又は不適合が、影響を受けた当事者の合理的な制御を超える事由によって引き起こされた場合、他方当事者に対し遅滞や不適合の責任を負わない。
(3)相殺(Set off)
一般的に、相殺は法定の要件さえ満たせば自由に行えます。
しかし、契約書において相殺が禁止されているor一方当事者のみ相殺が禁止されている場合は、契約書のルールが優先されます。そのため、相殺に関する規定がある場合、相殺が禁止されているのか、禁止されているとして「双務」なのか「片務」なのか確認する必要があります。
特に自社が買主側の場合、相手方(売主)の契約違反に基づく損害賠償請求権と自社が負う代金支払債務とを相殺することで、代金支払いを拒否するための手段として相殺が活用できますので、相殺に関するルールには注意しましょう。
英文契約書における相殺禁止条項は、例えば下記のように規定されます。
No Set-off
Neither Party shall have the right to set off any payments owing to the other Party under this Agreement
against any payments owed by the other Party, unless otherwise agreed by the Parties inwriting.
日本語訳
相殺禁止
両当事者が書面により別途合意する場合を除き、いずれの当事者も、本契約に基づき他方当事者に対し支払うべき金銭を、他方当事者が当該当事者に対し支払うべき何らかの金銭と相殺することはできない。
3.まとめ
今回は、海外企業との契約書における一般条項について、そのうちのいくつかをご紹介しました。
多くの契約書では一般条項が共通して設けられているため、一般条項の種類やポイントを把握しているだけで英文契約書のチェックを効率的に行えます。
他にも、一般条項には責任の限定、言語や準拠法等があります。
他の一般条項は弁護士コラム「海外企業との契約書(英文契約書)におけるテンプレ条項・注意点|その2」で解説いたします。
海外企業との国取引に不安を感じている場合は、お気軽に弊所へご相談ください。
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