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公開日:2024.1.31
企業法務【名古屋/交通事故】従業員が業務中に起こした交通事故に関する会社から従業員への求償について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「従業員が業務中に起こした交通事故に関する会社から従業員への求償」について取り上げます。
1.従業員が業務中に起こした交通事故の会社の責任について
会社の従業員が、会社所有の自動車を使用して、取引先を訪問し、取引先から帰って来る途中で、交通事故を起こしてしまった場合、事故を起こした従業員が被害者に対して損害賠償責任を負うことは当然ですが、会社も被害者に対して損害賠償責任を負います(被害者に賠償金を支払わないといけない)。
会社が被害者に対して損害賠償責任を負う根拠は、2つあります。
1つが①使用者責任で、もう1つは②運行供用者責任です。
(1)使用者責任について
使用者責任とは、会社の従業員が、会社の業務中に第三者に損害を与えた場合に、従業員と同様に会社も損害賠償責任を負うというものです。
なぜ、交通事故を直接起こしたわけでもないのに、会社が使用者責任を負うかというと、「会社は、従業員が行う業務によって利益を受けているのだから、従業員が負担した責任は会社も負いなさい」という報償責任という考え方や、「会社が危険な行為を行って利益を得ているのだから、危険な行為によって発生した責任も会社が負いなさい」という危険責任という考え方があるからです。
「業務中」というのは、外形的に判断されますので、仮に、会社の従業員が業務時間外に会社所有の自動車を運転していたとしても、外形的にみると「業務中」の運転だと判断されますので、会社は使用者責任を負うことになります。
なお、会社の従業員が、会社保有の自動車ではなく、マイカーを使用していた場合の会社の責任に関しては、弁護士コラム「マイカー使用中の交通事故の会社の責任について」をご参照ください。
(2)運行供用者責任について
運行供用者責任とは、自動車について「運行支配」と「運行利益」を有する者が、自動車の運行によって第三者の生命・身体に対して損害を与えた場合に、損害賠償責任を負うというものです。
「生命・身体に対して損害を与えた場合」の責任ですので、損害が物損のみの場合には運行供用者責任は発生しません。
「運行支配」とは、自動車の運行を指示・制御すべき立場にあることを指します。
会社所有の自動車について、会社は所有者として自動車の運行を指示・制御すべき立場にありますので、「運行支配」が認められます。
「運行利益」とは、自動車の運行によって利益を受ける立場にあることを指します。
会社所有の自動車について、会社は所有者として自動車の運行によって利益を受ける立場にありますので、「運行利益」が認められます。
そのため、会社所有の自動車を運転して交通事故を起こした場合、会社は、運行供用者として、被害者に対して損害賠償責任を負います。
この場合、会社所有の自動車を運転していた人が、従業員でなくても会社は運行供用者責任を負います。
例えば、会社を退職した直後の元従業員に、2日後に返してもらう約束で、無償で会社所有の自動車を貸した場合に、元従業員が自動車を運転して会社に返しに行く途中に起こした交通事故に関して、「運行支配」は失われていないとして、会社に運行供用者責任を認めた裁判例があります。
また、会社の従業員が、会社に無断で会社所有の自動車を私用で運転していた場合に起こした交通事故であっても、会社の運行供用者責任が認められていることが多いので、注意が必要です。
ただし、会社所有の自動車が盗難に遭い、盗難者が会社所有の自動車を運転して交通事故を起こした場合には、自動車の管理方法に問題がある場合(公道上にエンジンキーをつけたままドアロックをしないで自動車を駐車していた場合等)を除いては、原則として、会社が運行供用者責任を負うことはありません。
2.会社から従業員への求償について
会社の従業員が、会社所有の自動車を使用して、取引先を訪問し、取引先から帰って来る途中で、交通事故を起こしてしまった場合、会社は、使用者責任と運行供用者責任を負います。
その場合に、会社が事故を起こした自動車について任意保険をかけていなかったために、会社が被害者に対して損害賠償金を全額支払ったとします。
しかし、実際に、交通事故を起こしたのは従業員です。
そこで、会社は交通事故を起こした従業員に対し、被害者に支払った損害賠償金を負担させたい(求償したい)ところです。
では、会社は、交通事故を起こした従業員に対し、被害者に支払った損害賠償金全額を負担させる(求償する)ことができるのでしょうか。
(1)使用者責任の場合
民法では、会社が使用者責任に従って被害者に損害賠償金を支払った場合、会社は、交通事故を起こした従業員に対し、求償をすることができるとされています。
そうすると、会社は、交通事故を起こした従業員に対して、被害者に支払った損害賠償金全額を求償できるようにも思います。
しかし、使用者責任の根拠には、報償責任と危険責任の考え方があります。
そのため、従業員への求償を全額認めてしまうと、結果的に、会社は何の責任も負担も負わないことになります。
それだと、報償責任や危険責任の考え方が全うされませんので、使用者責任の場合、会社から交通事故を起こした従業員への求償は、一定の制限を受けます。
例えば、会社が、自動車の運転が初心者だった従業員に対し、その担当業務でないのに、臨時に自動車の運転を命じ、その結果、その従業員が交通事故を起こしてしまった事案では、会社から交通事故を起こした従業員への求償は、全部否定されました。
また、そうでなくとも、従業員に重大な過失が認められる場合を除いて、会社から交通事故を起こした従業員への求償は、25%以下に制限されることがあります。
(2)運行供用者責任の場合
会社が運行供用者責任に従って被害者に損害賠償金を支払った場合、会社は、交通事故を起こした従業員に対し、求償をすることができると考えられていますが、使用者責任と同様に、一定の制限を受けます。
3.おわりに
上に見てきたとおり、会社が被害者に損害賠償金を全額支払った場合、交通事故を起こした従業員に対し、全額求償できるわけではないことが多いです。
そのため、会社としては、会社所有の自動車に任意保険をかけるという対応が必要になります。
この場合、保険料は会社負担となりますが、その代わりに、従業員が会社所有の自動車で交通事故を起こした場合に、任意保険会社が損害賠償金を被害者に支払うため、会社が損害賠償金を負担する必要がなくなるからです。
もし、任意保険に入っていない状態で、従業員が会社所有の自動車を運転して、交通事故を起こしてしまった場合には、弁護士までご相談ください。
以上
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