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公開日:2024.2.9
人事・労務割増賃金の基礎
弁護士法人PROの弁護士の花井宏和です。
割増賃金は,一般的には残業代と呼ばれています。
割増賃金は,使用者と労働者間でトラブルに発展しやすい事項であり,未払割増賃金額は中小企業にとって莫大な金額になることが多く,問題が具体化する前に早期に是正することが望ましいです。
是正には就業規則の変更等が伴います。
このコラムでは,割増賃金の基礎について解説します。
割増賃金の支払いを巡って自社の従業員とトラブルになった場合や,自社の体制に問題がないかを確認したい場合には,弊所までお気軽にご相談ください。
1.割増賃金とは
使用者は,労働者に,36条協定を締結しない限り,1日8時間,1週40時間(法定労働時間)を超えて労働させることはできません(労働基準法(以下「法」といいます)32条)。
36条協定を締結すると法定労働時間を超えて労働させることが可能になりますが,法定労働時間を超えて労働させた場合には,使用者は割増賃金すなわち通常よりも多くの金額の賃金を支払う義務を負います(法37条)。
また,休日労働・深夜労働に対しても割増賃金を支払う義務を負います(法37条)。
割増賃金が発生するケース
2.割増賃金を支払う必要のない「残業」
使用者・労働者間の労働契約で定められた所定労働時間(いわゆる定時)を超えて労働した場合であっても,法定労働時間内の労働である場合には,割増賃金を支払う義務はありません。
下記、ケースについて考えてみます。
このケースでは,午後5時から午後6時までの「残業」については,割増賃金を支払う必要はありません。
法定労働時間である1日8時間の労働時間を超えていないからです。
他方で,午後6時から午後7時までの「残業」については,法定労働時間である1日8時間を超えているので割増賃金を支払う必要があります。
このように,所定労働時間を超えており会社的には「残業」にみえるが,法定労働時間である1日8時間を超えていない部分については割増賃金を支払う義務がありません。
もっとも,就業規則で所定労働時間を超える場合に割増賃金を支払うと就業規則に定めている場合には,割増賃金を支払う必要があります。
3.労働者が遅刻した場合の時間外労働時間の計算方法
労働者が始業時間に1時間遅刻し,その分,終業時刻後に1時間の労働をし,合計8時間の労働をしたケースについて考えてみます。
時間外労働の割増賃金は,あくまでも1日の労働時間が8時間を超えた場合に支払われるものであるので,現実に8時間を超える労働をしていない限り,割増賃金は発生しないことになります。
そうすると,本件のケースでは,1日の労働時間は8時間であり法定労働時間の範囲内であって,法定労働時間を超える労働はされていないから,時間外労働に係る割増賃金を支払う必要はありません。
4.割増賃金率
割増賃金を支払う必要のある場合であっても,割増賃金率はそれぞれ異なります。
割増賃金が発生するケース | 割増率 | |
①時間外労働 |
時間外労働時間が月60時間以内のもの |
25%以上 |
②時間外労働 | 時間外労働時間が月60時間を超えるもの | 50%以上 |
③休日労働 | 法定休日に労働させた場合 ※1 | 35%以上 |
④深夜労働 | 深夜時間帯(原則として午後10時から午前5時に労働させた場合) | 25%以上 |
⑤時間外労働+深夜労働 | 時間外労働時間が月60時間以内のもの | 50%以上 |
⑥時間外労働+深夜労働 | 時間外労働時間が月60時間を超えるもの | 75%以上 |
⑦休日労働+深夜労働 | 60%以上 |
※1 休日労働として割増賃金を支払う必要があるのは,法定休日(1週1日もしくは4週4日の休日)に労働させた場合のみです。
会社の制度として完全週休2日制を取っており,法定休日を土曜日としている場合には,日曜日に就労したとしても,日曜日に関しては休日労働としての割増賃金の対象とはなりません。
また,法律上の休日労働が1日8時間を超える場合でも割増賃金率は35%です。
法律上の休日に当たらない休日については,通常の賃金を支払えば足りますが,週の法定労働時間(週40時間)を超える場合については,時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。
5.割増賃金計算の基礎
割増賃金の計算の基礎となる「通常の労働時間または労働日の賃金」とは,「当該労働を通常の労働時間・労働日に行った場合に支払われる賃金」をいいます。
たとえば,月給制の場合には,月給額(時間外・休日労働割増賃金などを除く)を月の所定労働時間数で除した額とされます(法37条1項・3甲,労基即19条1項4号参照)。
時給制の場合には,時給の額そのものとなります(労基即19条1項1号参照)。
端的にいえば,1時間あたりいくらもらっているかということになります。
次のものは割増賃金の計算の基礎となる賃金には含まれません。
次のカテゴリーに属する者は労働時間等に関する規制の適用が除外されており,これらの者には時間外労働及び休日労働については割増賃金を支払う義務がありません。
もっとも,深夜労働に関する規制については適用除外とはなりません。
そのため,深夜労働に関しては割増賃金を支払う必要があります。
◇農業・水産業に従事する者
これらの産業は,天候・季節等の自然の条件に強く影響されるため適用除外とされています。
◇管理・監督者
法42条3号の「監督若しくは管理の地位にある者」とは労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
管理・監督者に該当するかは,「店長」や「部長」等の肩書ではなく実態に即して判断されます。
たとえば,採用・配置など部下の人事考課に一定の権限がある,出社・退社時間の拘束がない,経営上の重要事項に関する権限を有している,十分な役職手当が支払われていること等の事情が考慮されます。
重役出勤できる人といったイメージがわかりやすいかもしれません。
管理監督者性が肯定された例として,労務管理の権限を有していた取締役,労務管理の実質的な権限を有していた営業次長等が挙げられます。
◇機密事務取扱者
端的にいうと重役秘書が該当します。
◇監視・断続的労働従事者
工場の警備員,マンションの管理人,守衛,学校の用務員,高級職員専用自動車運転手,団地の管理人,隔日勤務のビル警備員等がこれに該当します。
なお,この適用除外には行政官庁の許可が必要です。
◇高度プロフェッショナル制度
このカテゴリーに該当する場合には,労働時間,休憩,休日の規定に加えて,深夜労働の割増賃金の規定も適用されません。
つまり,他のカテゴリーとは異なり,深夜労働についても割増賃金を支払う必要がありません。
今回は,割増賃金の基礎についてご説明しました。
割増賃金は労使間でトラブルになりやすい事項であり,金額も多額のものとなるため早期の是正が求められます。
割増賃金に限らず,人事・労務でお困りの場合には弊所にお気軽にご相談ください。
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