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公開日:2021.2.26
企業法務職務発明規程について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
私のコラムでは、知的財産(特許、著作権、商標、意匠など)を中心に、企業法務、人事・労務に関する情報を発信していきたいと思います。
今回は、特許に関し、職務発明規定について取り上げています。
1.職務発明規程とは?
突然ですが、皆様の会社では「職務発明規程」を作成されていますでしょうか。
職務発明規程とは、従業員が行った職務発明(※)について、職務発明によって発生した権利をどのように取り扱うのか、職務発明を行った従業員にどのような利益(相当の利益といいます)を与えるのか、といったことについて、会社が定める規程のことです。
大企業にあってはほとんどの会社で職務発明規程が整備されていますが、中小企業にあっては20%ほどしか整備がされていないと言われています。
では、なぜ職務発明規程が必要なのでしょうか。
※職務発明
従業員が会社での職務の範囲内で行った発明のことです。従業員が行った発明であっても、会社での職務の範囲外で行った発明は職務発明にはなりません(これを「自由発明」といいます)。
2.職務発明規程の必要性
仮に、会社に職務発明規程がない場合に、従業員が職務発明を行ったらどうなるかを考えてみましょう。
従業員が職務発明を行った場合、その発明を特許庁へ出願する権利(これを「特許を受ける権利」といいます。)は従業員が取得します。
この特許を受ける権利がなければ、特許庁に出願をして特許権という発明に対する独占権を取得することができません。
ですから、従業員に発明を出願する意思がなければ、その発明について独占権が与えられませんし、反対に、会社としてはノウハウとして秘匿しておきたい発明であったとしても、従業員の一存で発明が出願され、出願されると発明内容が原則として公開されてしまいます。
そして、従業員が職務発明を特許庁に出願し、審査が通ることで特許権という発明に対する独占権を取得するのは、職務発明を行った従業員になります。
この場合、会社は、無償で職務発明を使うことができますが、特許権という発明に対する独占権は従業員が持っていますので、会社は職務発明について独占使用をすることができないのです。
そうすると、会社としては、従業員に設備や開発資金を提供し、失敗のリスクを負担しているのに、職務発明による資本回収の機会が十分に確保されないのです。
ここで、もし、「職務発明については、その発明が完成した時に、会社が特許を受ける権利を取得する。」という内容を盛り込んだ職務発明規程を作成していた場合はどうなるでしょうか。
その場合、会社が職務発明について特許を受ける権利を取得しますので、会社が職務発明を特許庁に出願するかどうかを決めることができるのです。
ノウハウとして秘匿することも可能ですし、出願して特許権を取得することもできます。
ただし、会社は、職務発明を行った従業員から特許を受ける権利を取得する以上、当該従業員に対しては「相当の利益」を与えなければならないとされています(会社が出願せずにノウハウとして秘匿する場合も「相当の利益」を与える必要があります)。
3.相当の利益とは?
特許法では、「相当の利益」とは、相当の金銭その他の経済上の利益のことを指すとされています。
ガイドライン(※)では、金銭以外の例として、
・会社負担による留学の機会の付与
・ストックオプションの付与
・金銭的処遇の向上を伴う昇進又は昇格
・法令及び就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与
・職務発明に係る特許権についての利用権(専用実施権の設定又は通常実施権の許諾)の付与
が挙げられています。
なお、経済的価値を有すると評価できないもの(例えば、表彰状など)は含まれません。
「相当の利益」の額については、職務発明規程の中で定めることもできますし、定めないこともできます。
まず、職務発明規程の中で「相当の利益」の額を定めるにあたって、相当の利益の内容を決定するための基準を策定することができます。
例えば、
・職務発明に係る実施品の年間売上高のうち〇%を当該職務発明の発明者に支払う。
といった内容が考えられます。
この基準の策定に際しては、
①会社と従業員との間で協議を行うこと(合意までは求められていません)、
②策定された基準を従業員に開示すること、
③具体的に特定の職務発明の相当の利益の内容を決定する場合に、その決定に関して、当該職務発明をした従業員から意見を聴くこと
が必要ですが、単に、これらを行えばよいのではなく、これらの手続の状況全般を考慮した上で、当該基準に基づいて相当の利益を与えることが不合理でないかどうかが判断されます。
仮に、職務発明規程の中に相当の利益の額について定めなかった場合や定めたとしても相当の利益を与えることが不合理な場合には、会社が受けるべき利益の額、その発明に関連して会社が行う負担、貢献及び従業員の処遇その他の事情を考慮して決めることになります。
※「特許法第35条第6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関する指針」(経済産業省告示第131号)
4.職務発明規程に盛り込む内容
特許庁が公表している中小企業向けの職務発明規程には、
・発明の届け出に関する事項
・権利の帰属に関する事項
・「相当の利益」の内容
・従業員からの意見の聴取手続
・秘密保持
などが盛り込まれていますが、会社によって定める内容が異なってきますので、詳細をお知りになりたい方は、一度ご相談いただければと存じます。
以上
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