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公開日:2024.3.8
人事・労務配転命令の有効性
弁護士法人PROの弁護士の花井宏和です。
会社が人事権の行使として配転命令をしても、自社の従業員がこれを拒否しトラブルとなり訴訟に発展することもあります。
配転命令を巡るトラブルを未然に防ぐために、このコラムでは、配転命令の有効性について解説します。
配転命令の有効性を巡って自社の従業員とトラブルになった場合や、自社の体制に問題がないかを確認したい場合には、弊所までお気軽にご相談ください。
1.配転とは
配転とは、職務内容または勤務体制が、あるいはその両方がある程度長期間にわたり変わることをいいます。
勤務場所が変わる「転勤」も配転に含まれます。
長期間でなく一時的に勤務場所が変わる場合は「出張」にあたります。
また、職務内容または勤務場所は維持したままで臨時的に他部署、場所の業務を行う場合には「応援」にあたります。
2.配転命令の根拠
職務内容や勤務場所は労働条件の重要な要素です。
そのため、配転に関して本人の合意があれば問題はありませんが、使用者がそれらを変更しようとする場合には就業規則・労働協約・労働契約上の根拠が必要となります。
実際には、就業規則において「業務上の必要がある場合には配転を命じることができる」との規定が設けられていることが一般的です。
このような規定は、一般的には幅広い能力開発の必要性や雇用の柔軟性確保の要請から合理的なものと解釈され、配転命令権を基礎づけるものとされます。
3.配転命令に従わない労働者の解雇
配転命令は業務命令なので、労働者が配転先の職種・勤務地における労務の提供をしない以上、配転命令が有効な場合には、当該労働者に対する解雇は原則として有効とされます。
もっとも、裁判例においては、配転命令を有効としつつも配転命令に従わない労働者の解雇については無効としたものがあり、必ずしも配転命令の有効性と配転命令に違背する労働者への解雇は連動しません。
そのため、配転命令が有効であっても、使用者は、配転命令に違背した労働者に対して説明、説得といった手続きを踏む必要があります。
4.配転が制約される場合
就業規則に配転を命じる旨の規定があっても以下の場合には配転命令が制約されます。
(1)職種や勤務地を限定する明示・黙示の合意がある場合
就業規則に配転の一般的な根拠規定があるが、それとは別に職種又は勤務場所の限定の合意があるという場合です。
その場合には、使用者は労働者に職種の内容や勤務場所の変更を伴う配転を命じることはできません。
職種または勤務地の限定の合意の有無は、労働契約上明示されている場合の他
から総合的に判断されます。
職種限定合意が認められるケースとしては、医師、看護師、検査技師、ボイラー技士、大学教員等特殊な資格や技能を有する場合が多いです。
勤務地限定合意が認められたケースとしては、現地採用の補助職員、転勤には応じられない旨述べて採用された従業員等があげられます。
職種又は勤務場所の限定合意がある場合に、配転を命じるためには別途労働者の個別的合意が必要となります。
そのため、配転を命じる際には、労働者の個別合意を得るようにしましょう。
合意を得る際には、使用者の働きかけによるものであるか、職種変更又は勤務地変更に合理性があるのか、職種変更後の状況はいかなるものであるか等を考慮する必要があります。
(2)配転命令が権利濫用にあたる場合
配転は労働者の私生活に大きな影響を与えます。
そのため、配転命令が権利の濫用にあたる場合には、配転命令が制約されます。
権利の濫用にあたるかは以下の要素をもとに判断されます。
① 業務上の必要性の有無
業務上の必要性については、余人をもっては替え難いという高度の必要性は要求されず、労働者の適正配置や業務運営の円滑化といった事情で足ります。
判例上は業務上の必要性については比較的緩やかに解されており、例えば、人事ローテーションとしての定期異動であれば、業務上の必要は認められることになります。
② 不当な動機・目的の有無
不当な動機・目的としては、嫌がらせや報復としての配転、退職へ追い込むための配転などが挙げられます。
動機・目的が不当とされた裁判例としては
等があります。
③ 従業員が被る不利益の程度
子の養育や家族の介護を行う労働者の転勤には配慮が必要です。労働者の子の養育や介護の必要性に配慮しない配転は権利濫用となる可能性があります。
裁判例においても、配転すると病気の家族を介護・看護できなくなるといった事情から配転命令を権利濫用としたケースが多くあります。
また、配転に至る手続きにも配慮する必要があります。
配転命令をするには、労働者の家庭の事情を考慮するために事前に労働者に事情聴取をし、配転の理由等についても説明しておくのが望ましいです。
5.労働者が配転命令を拒否する場合の措置
まずは、拒否の理由の聞き取り、説明、説得といった手続きを踏む必要があります。
そのうえで、配転命令に従わない場合には
等様々な方策を執ることが考えられます。
もっとも、労働者が不服として裁判に発展する可能性もありますので、事前に弁護士に相談しアドバイスを受けると労働者の合意も受けられやすくなろうかと思います。
今回は、配転命令の有効性についてご説明しました。
労働者の配転に限らず、人事・労務でお困りの場合には弊所にお気軽にご相談ください。
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