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弁護士コラム
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公開日:2024.3.29
企業法務2024年に施行される主な改正法について(その2)
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
2024年に施行される改正法のうち、企業活動や私たちの生活に関係の深い主要なものを、前回と今回の2回に分けてご紹介します。
今回は、労働法令関係についてご紹介します。
1.化学物質管理者の選任の義務化(2024年4月1日施行)
化学物質管理者とは、化学物質の管理について必要な能力を有し、事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理する者をいいます。
労働安全衛生規則の改正により、2024年4月1日からは、リスクアセスメント対象物を取り扱う全ての事業場において、化学物質管理者の選任が義務となりました。
リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示対象物」と「通知対象物」をいいます。
「ラベル表示対象物」とは、労働安全衛生法及び労働安全衛生規則によって、容器にラベル表示が義務付けられている危険性・有害性のある化学物質のことをいいます。
「通知対象物」とは、労働安全衛生法及び労働安全衛生規則によって、一定の事項を通知することが義務付けられている危険性・有害性のある化学物質のことをいいます。
どのような化学物質が「ラベル表示対象物」「通知対象物」に当たるかについては、職場の安全サイトで検索することができます。
(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html)
2.労働条件明示のルール変更(2024年4月1日施行)
労働基準法施行規則の改正により、2024年4月1日以降は、労働者を雇い入れる際に交付する労働条件通知書には、以下の事項の記載が義務付けられます。
◆就業場所及び従事すべき業務の変更の範囲(全ての従業員)
◆更新上限の有無及び内容(有期契約の従業員)
◆無期転換申込権(通算5年を超えて雇用された従業員が、期間の定めのない無期労働契約への転換を申し込むことができる権利)が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨(有期契約の従業員)
◆無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件(有期契約の従業員)
以上の改正事項を反映したモデル労働条件通知書が、厚生労働省のホームページで公表されています。
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html)
3.裁量労働制の見直し(2024年4月1日施行)
労働基準法施行規則の改正により、2024年4月1日以降は、専門業務型裁量労働制の対象業務として、以下の業務が追加されるとともに、専門業務型裁量労働制、企業業務型裁量労働制ともに労使協定等に記載すべき事項として、以下の事項が追加されます。
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるものとして定められた20の専門業務(2024年4月1日の業務追加後の数)について、労使協定で予め定めた時間労働したものとみなされる制度です。
企業業務型裁量労働制とは、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務の性質上、業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、労使委員会の決議で予め定めた時間、労働したものとみなされる制度です。
【追加される業務】(専門業務型のみ)
銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
【労使協定等への記載が追加される事項】
◆労働者本人から同意を得ること(専門業務型のみ)
◆労働者が同意をしなかった場合の不利益な取り扱いの禁止(専門業務型のみ)
◆同意の撤回の手続(専門業務型・企業業務型)
◆各労働者の同意及び同意の撤回に関する記録の保存(専門業務型・企業業務型)
4.特定業種における労働時間の上限規制の見直し(2024年4月1日施行)
(1)労働時間に関する上限規制
労働基準法では、労働時間は、原則として、1日8時間・1週40日以内とされています(これを「法定労働時間」と言います)。
法定労働時間を超えて労働者に時間外労働(いわゆる残業)をさせる場合には、労働基準法36条に基づく労使協定(いわゆる36(サブロク)協定)の締結と所轄労働基準監督署への届出が必要です。
しかし、36(サブロク)協定の締結と所轄労働基準監督署への届出を行えば、無制限に時間外労働をさせることができるわけではありません。
大企業については平成31年4月1日から、中小企業については令和2年4月1日から、臨時的な特別な事情がない限り、時間外労働の上限が月45時間・年360時間を超えることができなくなりました。
また、臨時的な特別な事情があって労使が合意する場合(これを「特別条項」と言います)であっても、以下の①~④の条件を守らなければなりません。
① 時間外労働が年720時間以内であること
② 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であること
③ 時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり80時間以内であること
④ 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度であること
なお、②③については、臨時的な特別な事情がない場合であっても、1年を通して常に守らないといけません。
以上の時間外労働の上限規制について、「医師」「建設業」「自動車運転の業務」の事業・業務については、5年間規制の適用が猶予されていましたが、令和6年3月31日で猶予期間が終了することになりました。
(2)医師の時間外労働の上限規制
令和6年4月1日以降は、医師についても、時間外労働の上限規制が適用されます。
ただし、一般の上限規制(月45時間・年360時間)を超える場合、AからCの水準に応じて、異なる時間外労働の上限規制が適用されます。
【A水準(診療従事勤務医:医業に従事する一般の医師)】
・原則として、月100時間未満(休日労働含む)・年960時間以内(休日労働含む)
・月100時間の上限を超える場合には、面接指導と就業上の措置が義務付けられ、健康確保措置(※)を実施することが努力義務とされています。
【B水準(地域医療確保暫定特例:救急医療など緊急性の高い医療を提供する医療機関)】
・原則として、月100時間未満(休日労働含む)・年1860時間以内(休日労働含む)
・月100時間の上限を超える場合には、面接指導と就業上の措置とともに、健康確保措置(※)を実施することが義務付けられています。
【C水準(集中的技能向上:初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や、高度技能獲得を目指すなど短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師)】
・原則として、月100時間未満(休日労働含む)・年1860時間以内(休日労働含む)
・月100時間の上限を超える場合には、面接指導と就業上の措置とともに、健康確保措置(※)を実施することが義務付けられています。
※ 連続勤務時間制限28時間・勤務間インターバル9時間の確保・代償休息の付与。
(3)建設業の時間外労働の上限規制
令和6年4月1日以降は、建設業についても、時間外労働の上限規制が適用されます。
ただし、建設業のうち「災害の復旧・復興の事業」については、特別条項を定める場合に守らないといけない条件のうち、②③の上限を適用しないこととなっています。
(4)自動車運転業務の時間外労働の上限規制
【拘束時間(始業から終業までの時間(休憩時間を含む))】
トラック運転手
◆1日13時間以内(最大15時間、14時間超は週2回まで)
(例外)宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、16時間まで延長可(週2回まで)
◆月284時間以内(※)
◆年3300時間以内(※)
※ 労使協定により、①②の条件を満たす場合には、月310時間以内(年6か月まで)、年3400時間以内に延長可能。
① 284時間超は連続3か月まで
② 1か月の時間外労働・休日労働時間数が100時間未満となるよう努めること
バス運転手
◆1日13時間以内(最大15時間、14時間超は週3回まで)
◆月281時間以内、かつ、年3300時間以内(※1)
又は
◆52週間で3300時間以内、かつ、4週で平均1週65時間以内(※2)
※1 労使協定により、
・貸切バスを運行する営業所において運転の業務に従事する者
・乗合バスに乗務する者(一時的な需要に応じて追加的に自動車の運行を行う営業所において運転の業務に従事する者に限る)
・高速バスに乗務する者
・貸切バスに乗務する者
については、1年のうち6か月までは、1年の総拘束時間が3400時間を超えない範囲内において、1か月の拘束時間を294時間まで延長可能。
※2 労使協定により、
・貸切バスを運行する営業所において運転の業務に従事する者
・乗合バスに乗務する者(一時的な需要に応じて追加的に自動車の運行を行う営業所において運転の業務に従事する者に限る)
・高速バスに乗務する者
・貸切バスに乗務する者
については、52週のうち24週までは、52週の総拘束時間が3400時間を超えない範囲内において、4週平均1週の拘束時間を68時間まで延長可能。ただし、4週平均1週の拘束時間が65時間を超える週は連続16週までとしなければなりません。
タクシー・ハイヤー運転手(日勤勤務者)
◆1日13時間以内(最大15時間、14時間超は週3回まで)
◆月288時間以内
タクシー・ハイヤー運転手(隔日勤務者)
◆2暦日の拘束時間は22時間以内、かつ、2回の隔日勤務を平均し、隔日勤務1回当たり21時間以内
◆月262時間以内(※)
※ 地域的事情その他の特別な事情がある場合において、労使協定があるときは、1年のうち6か月までは、1か月の拘束時間を270時間まで延長可能。
トラック運転手
継続9時間以上(11時間以上与えるように努める)(※)
※ 宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、1週について2回に限り、継続8時間以上とすることができます。ただし、休息期間のいずれかが継続9時間を下回る場合は、一の運行終了後、継続12時間以上の休息期間を与えないといけません。
バス運転手
継続9時間以上(11時間以上与えるように努める)
タクシー・ハイヤー運転手(日勤勤務者)
継続9時間以上(11時間以上与えるように努める)
タクシー・ハイヤー運転手(隔日勤務者)
継続22時間以上(24時間以上与えるように努める)
トラック運転手
◆2日平均で、1日9時間以内
◆2週平均で、1週44時間以内
バス運転手
◆2日平均で、1日9時間以内
◆4週平均で、1週40時間以内(※)
※ 労使協定により、
・貸切バスを運行する営業所において運転の業務に従事する者
・乗合バスに乗務する者(一時的な需要に応じて追加的に自動車の運行を行う営業所において運転の業務に従事する者に限る)
・高速バスに乗務する者
・貸切バスに乗務する者
については、52週のうち16週までは、52週の総運転時間が2080時間を超えない範囲内において、4週平均1週の運転時間を44時間まで延長可能。
トラック運転手
4時間以内(運転の中断は1回が概ね10分以上で、合計30分以上の原則休憩)(※)
※ サービスエリア又はパーキングエリア等が満車である等により駐車又は停車できず、やむを得ず連続運転時間が4時間を超える場合には、4時間30分まで延長可能。
バス運転手
4時間以内(運転の中断は1回が10分以上で、合計30分以上の休憩)。
ただし、高速バス運転者及び貸切バス運転者が高速道路等を運転する場合は、概ね2時間までとするように努めなければなりません。(※)
※ 軽微な移動を行う必要が生じた場合、当該必要が生じたことに関する記録がある場合に限り、当該軽微な移動のために運転した時間を、一の連続運転時間当たり30分を上限として、連続運転時間から除くことが可能。
【特例】
トラック運転手
◆分割休息(業務の必要上、勤務終了後、継続9時間以上(宿泊を伴う長距離貨物運送の場合は継続8時間以上)の休息期間を与えることが困難な場合)
当分の間、一定期間(1か月を限度)における全勤務回数の2分の1を限度に、休息期間を拘束時間の途中及び拘束期間の経過直後に分割して与えることができる。
ただし、分割された休息期間は、1回当たり継続3時間以上、2分割又は3分割とし、1日において、2分割の場合は合計10時間以上、3分割の場合は合計12時間以上が必要。
3分割する日が連続しないよう努める。
◆2人乗務(同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合)
車両内に身体を伸ばして休息することができる設備があるときは、拘束時間を20時間まで延長するとともに、休息期間を4時間まで短縮可能。(※1)
◆隔日勤務(業務の必要上やむを得ない場合)
当分の間、2暦日の拘束時間が21時間を超えず、かつ、勤務終了後、継続20時間以上の休息期間を与える場合に限り、トラック運転者を隔日勤務に就かせることが可能。(※2)
◆フェリー(勤務の中途においてフェリーに乗船する場合)
フェリーに乗船している時間は、原則として、休息期間として取り扱います。
その場合、休息期間とされた時間を与えるべき休息期間の時間から減らすことができます。
ただし、減算後の休息期間は、2人乗務の場合を除き、フェリー下船自国から勤務終了時刻までの間の時間の2分の1を下回ってはなりません。
フェリーの乗船時間が8時間(2人乗務の場合は4時間、隔日勤務の場合は20時間)を超える場合には、原則としてフェリー下船時刻から次の勤務開始。
※1 設備が次の①②のいずれにも該当する車両内ベッドであり、かつ、勤務終了後、継続11時間以上の休息期間を与える場合は、拘束時間を24時間まで延長可能。
① 長さ198cm以上、かつ、幅80cm以上の連続した平面であること
② クッション材等により走行中の路面等からの衝撃が緩和されるものであること
※2 事業場内仮眠施設又は使用者が確保した同種の施設において、夜間に4時間以上の仮眠を与える場合には、2週について3回を限度に、この2暦日の拘束時間を24時間に延長可能。ただし、2週における総拘束時間は126時間(21時間×6勤務)を超えることができません。
バス運転手
◆分割休息(業務の必要上、勤務終了後、継続9時間以上の休息期間を与えることが困難な場合)
当分の間、一定期間(1か月を限度)における全勤務回数の2分の1を限度に、休息期間を拘束時間の途中及び拘束期間の経過直後に分割して与えることができる。
ただし、分割された休息期間は、1回当たり継続4時間以上、合計11時間以上が必要。2分割のみとし、3分割以上は不可。
◆2人乗務(同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合)
車両内に身体を伸ばして休息することができる設備があり、当該設備がバス運転者の専用の座席として、身体を伸ばして休息できるリクライニング方式の座席が少なくとも一座席上確保されているときは、拘束時間を19時間まで延長するとともに、休息期間を5時間まで短縮可能。(※1)
◆隔日勤務(業務の必要上やむを得ない場合)
当分の間、2暦日の拘束時間が21時間を超えず、かつ、勤務終了後、継続20時間以上の休息期間を与える場合に限り、バス運転者を隔日勤務に就かせることが可能。(※2)
◆フェリー(勤務の中途においてフェリーに乗船する場合)
フェリーに乗船している時間は、原則として、休息期間として取り扱います。
その場合、休息期間とされた時間を与えるべき休息期間の時間から減らすことができます。
ただし、減算後の休息期間は、2人乗務の場合を除き、フェリー下船自国から勤務終了時刻までの間の時間の2分の1を下回ってはなりません。
フェリーの乗船時間が9時間(2人乗務の場合は5時間(2人乗務の例外適用の場合は4時間)、隔日勤務の場合は20時間)を超える場合には、原則としてフェリー下船時刻から次の勤務開始。
※1 設備が次の①②のいずれかの要件を満たす場合、拘束時間を20時間まで延長し、休息期間を4時間まで短縮可能。
① 当該設備として車両内ベッドが設けられていること
② 当該設備がバス運転者の専用の座席として、身体を伸ばして休息できるリクライニング方式の座席が少なくとも一座席上確保されている場合に、バス運転者の休息のための措置として、当該座席についてカーテン等により他の乗客からの視線を遮断する措置が講じられていること
※2 事業場内仮眠施設又は使用者が確保した同種の施設において、夜間に4時間以上の仮眠を与える場合には、2週について3回を限度に、この2暦日の拘束時間を24時間に延長可能。
ただし、2週における総拘束時間は126時間(21時間×6勤務)を超えることができません。
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