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公開日:2024.4.5
人事・労務出向命令の有効性
弁護士法人PROの弁護士の花井宏和です。
出向は、自社から関連企業に対して、人事交流、主に中高年労働者を対象とする雇用調整、労働者の能力・キャリア開発・育成、経営意識の関連会社への技術・経営指導等を目的として行われます。
会社が人事権の行使として出向命令をしても、自社の従業員がこれを拒否しトラブルとなり訴訟に発展することもあります。
このコラムでは、出向命令の有効性について解説します。
出向命令の有効性を巡って自社の従業員とトラブルになった場合や、出向命令を巡るトラブルを未然に防ぐために、自社の体制に問題がないかを確認したい場合には、弊所にお気軽にご相談下さい。
1.出向とは
出向とは、出向労働者が出向元企業の指揮監督下から離れて、出向先企業との間で一定の労働契約を成立させ、当該企業の従業員(ないし役員)となって、その指揮監督のもと労務を提供することをいいます。
出向には、在籍出向と転籍出向があります。
在籍出向とは、労働者が出向元企業に在籍したまま、出向先企業の従業員(または役員)となり、長期間にわたって出向先企業の指揮監督のもと労務の提供をすることをいいます。
転籍出向とは、労働者が出向元企業との契約を解消した上で、新たに出向先企業と労働契約を締結し、出向先企業の指揮監督のもと労務の提供をすることをいいます。
本コラムでは、在籍出向について取り上げます。
出向は、相当長期間に及ぶ点で応援とは異なります。
労働者の勤務時間等の労働条件は出向先の就業規則によって決まり、賃金の支払については、出向元が全額負担の場合もあれば、出向先の賃金額との差額を出向元が負担することもあります。
2.出向中の雇用関係
出向中も、出向元と労働者の間には労働契約が継続します。
そのため、出向した労働者は、出向元との間に労働契約関係がありつつも、出向元には労務を提供しないという関係になります。
出向労働者と出向先との間にも労働契約関係が生じるので、出向については二重の労働契約関係が生じることになります。
賃金の支払義務・懲戒権・解雇権は、出向労働者、出向元及び出向先の三者間の合意によります。
もっとも、通常であれば、賃金支払義務及び解雇権等の労働契約の基本的部分については出向元が有しており、他方で、労働時間等の就業管理及び懲戒解雇を除いた懲戒処分は出向先が有しているのが通常であろうと思います。
3.出向命令の根拠
出向は、出向労働者が労務を提供する相手方が、出向元企業から出向先企業へと変更されることになります。
これは、出向元が労務提供請求権を出向先へと譲渡することになるため、法的には出向労働者の同意が必要となります(民法625条1項)。
したがって、まず、出向を命じるには労働者の個別的な同意を得る必要があります。
この同意については、採用時にあらかじめ同意を得ることでもよく、個別の出向に際して合意を得ることは必ずしも必要ではありません。
こうした明示的な同意がない場合であっても、就業規則上の出向規定や、労働協約上の出向規定があれば、出向命令の根拠になり得ます。
これらの出向命令に関する就業規則等は、採用時に存在したものだけでなく、採用後に新たに創設されたものであっても根拠規定となります。
出向命令の場合には、労務提供の相手方が出向先企業に変更となり、労働条件に及ぼす影響が高いために、具体的な根拠を要します。
そのため、単に就業規則上の包括的根拠規定があることや、採用時の労働者の包括的同意を得た等では不十分となる場合もあります。
に関して、出向労働者の個別の合意を得るのが望ましいです。
4.出向が制約される場合
出向命令について出向労働者の合意がなく、また、就業規則等の明示の根拠規定もない場合には、出向命令をすることはできません。
また、就業規則等に出向に関する規定があったとしても、出向命令が権利濫用となる場合には、出向命令が無効となります(労働契約法14条)。
出向命令の行使が権利濫用に当たるか否かは、
等諸般の事情を考慮して判断されます。
本人の希望により出向命令がなされた場合には、業務上の必要性が認められやすいです。
たとえば、裁判例においては、ケアマネージャーとして働きたいとの本人の希望を踏まえて出向命令が発令された事案について、業務上の必要性があるとされました。
事前に説明会を実施し、出向労働者が担当業務について十分に理解していたこと、補償規定が設けられていること、出向期限が定められており出向元への復帰が予定されていること等の事情は出向命令の有効性を肯定する要素となります。
5.出向先からの復帰命令
復帰はない旨の特段の合意のない限り、出向先からの復帰命令に出向労働者からの個別的な同意は不要です。
もともとの出向元との雇用契約において、出向元の指揮命令下のもとで労務を提供することは合意されていたからです。
出向命令に関しては、まずは就業規則、労働協約等の根拠規定を確認しましょう。
出向命令をめぐるトラブルを未然に防ぐためには、出向中の労働条件等についても具体的に定めておく必要があります。
その上で、出向命令の目的、使用者の業務上の必要性、人選の合理性・適切性、出向労働者の生活上職業上の不利益等といった諸事情を考慮して出向を命じる必要性があります。
今回は、出向命令の有効性についてご説明しました。
労働者の出向に限らず、人事・労務でお困りの場合には弊所にお気軽にご相談ください。
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