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公開日:2024.4.19
企業法務2024年4月法改正障害者差別解消法
弁護士法人PROの伊藤崇です。
2024年4月に障害者差別解消法が改正されました。
この改正によって、事業者の「合理的配慮の提供」については、努力義務から義務へと変更されました。
この記事では、障害者差別解消法の概要や法改正の内容などについて詳しく解説していきます。
1.障害者差別解消法の概要
障害者差別解消法(正式名称を「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といいます)が、2013年(平成25年)6月に公布され、2016年(平成28年)4月から施行されています。
この法律は、「障害者基本法」の基本的な理念にのっとり「障害を理由とする差別」をなくすために必要とされる基本的な事項や、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置などについて定めることで、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現することを目的としています。
障害者基本法は、以下のように障害を理由とする差別禁止の原則を定めています。
まず、何人も障害者に対して、障害を理由として差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはなりません(障害基本法第4条1項)。
そして、社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって上記の義務に違反することとならないように、その実施について必要かつ合意的な配慮がなされなければなりません(同条2項)。
さらに、国は、1項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集・整理・提供を行うものとされています(同条3項)。
そのうえで、「障害者差別解消法」には、障害を理由とする差別を解消するために、行政機関や事業者に対して、「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」の2つが定められています。
「事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」として、不当な差別的取り扱いの禁止を規定しています(障害者差別解消法第8条1項)。
不当な差別的取扱いの具体例としては、以下のようなものです。
ただし、障害のある人に対する障害を理由とした異なる取扱いが、
①客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、
②その目的に照らしてやむを得ないと言える場合
には「正当な理由」があるとして、不当な差別的取扱いには該当しません。
そして、「合理的配慮の提供」に関して今回新たに法律改正が行われました。
2.障害者差別解消法の改正内容
(1)改正法の概要
2024年(令和6年)4月1日から障害者差別解消法が改正されました。
同法には、「事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」と規定されています(同法第8条2項)。
このような事業者の「合理的配慮の提供」については、改正前は「努力義務」とされていましたが、改正によって「義務」へと変更されました。
合理的配慮の具体例としては、以下のようなものがあげられます。
物理的環境への配慮(肢体不自由):
例えば、飲食店で車いすのまま着席したいという申し出があった場合には、机に備え付けの椅子を片づけて車いすのまま着席できるスペースを確保することが合理的な配慮といえます。
意思疎通への配慮(弱視難聴):
例えば、難聴のために筆談によるコミュニケーションを希望したが、弱視でもあるため、細かいペンや小さい文字では読みづらいといった場合には、太いペンで大きな文字を書いて筆談を行うということが合理的な配慮といえます。
ルールや慣行の柔軟な変更(学習障害):
例えば、文字の読み書きに時間がかかるため、セミナーへ参加中にホワイトボードを最後まで書き写すことができない場合には、書き写す代わりにデジタルカメラ、スマートフォン、タブレット型端末などでホワイトボードを撮影できることとすることが合理的な配慮といえます。
「合理的な配慮」については、事務・事業の目的・内容・機能に照らして、以下のような要素を満たしている必要があります。
したがって、飲食店において食事介助を求められたとしても、その飲食店は食事介助を事業の一環として行っていない場合には「①本来の業務に付随するもの」ではないので介助を断ることができます。
また、抽選販売を行っている限定商品について抽選申し込みの手続きを行うことが難しいことを理由に当該商品をあらかじめ別途確保しておくように求められたとしても、「②他の者との比較において同等の機会の提供」という観点から、対応を断ることができます。
また、対応に「過重な負担」がある場合には、合理的配慮の提供義務には反しないことになります。「過重な負担」の有無については、事務・事業への影響の程度、実行可能性の程度、費用・負担の程度、事務・事業の規模、財政・財務状況に応じて総合的に判断されることになります。
(2)改正法の対象となる企業・企業において実施を要する事項
「合理的配慮の提供」義務を負うのは、国の行政機関や独立行政法人のほか、商業その他の事業を行う事業者です。
政府全体の方針として、差別の解消の推進に関する基本方針を閣議決定により策定します。
国・地方公共団体等については、当該期間における取り組みに関する対応要領を策定します。
事業を所管する国の行政機関は、事業者が適切に対応できるようにするために、不当な差別的取扱いや合理的配慮の具体例を盛り込んだ対応指針(ガイドライン)を定めることとされています。
そのため、各事業者は対応指針を参考にして、障害者差別の解消に向けて自主的に取り組むことが要請されています。
農業・製造業・電気ガス水道・情報通信・運輸、郵便・金融、保険・宿泊、飲食等の分野に応じて府省庁等がガイドラインを策定しています。
(3)改正法に対応しなかった場合のペナルティ
事業者が「不当な差別的取扱いの禁止」や「合理的配慮の提供」について、法律に違反する行為を繰り返し、自主的な改善を期待することが困難な場合には、主務大臣によって報告を求められ、または助言・指導・勧告がなされるおそれがあります(障害者差別解消法第12条)。
3.まとめ
障害者差別解消法では、国の行政機関や事業者に対して、「不当な差別的取扱いの禁止」や「合理的配慮の提供義務」が要請されています。
そして、各分野の所管機関によってガイドラインが制定されているため、事業者の方はチェックしておく必要があります。
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