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公開日:2024.4.26
企業法務【名古屋/交通事故】会社役員の休業損害について
弁護士法人PROの松永圭太です。
今回は、会社役員の方が交通事故に遭ってしまった場合の「会社役員の休業損害」について取り上げます。
1.休業損害について
休業損害とは、交通事故により受けた怪我の治療のために休業した期間に得られなかった収入のことをいいます。
この休業損害は、交通事故によって被った損害として、交通事故の加害者に対して、請求することができます。
休業損害の金額は、①1日の基礎収入×②休業日数で計算します。
会社員(給与所得者)が交通事故に遭った場合
①1日の基礎収入額=事故直前3か月間の給与金額を暦日数(休業期間が連続している場合)又は実労働日(休業期間が連続していない場合)で割って算出した1日当たりの給与金額
②休業日数=実際に会社を休んだ日数(有給休暇を取得した場合も含みます)
を勤務先が発行する休業損害証明書、源泉徴収票等によって算定することが一般的です。
個人事業主、フリーランス(事業所得者)が交通事故に遭った場合
①1日の基礎収入額=(事故前年の所得税の確定申告書の所得金額+青色申告特別控除額+専従者給与+休業中にも発生した固定費(利子、減価償却費、家賃、従業員の給料))×被害者の寄与率÷365で算出した1日当たりの所得金額
②休業日数=実際に休業した日数
を確定申告書等によって算定することが一般的です。
(※他にも、事故前後の所得の比較によって休業損害を算出する方法もあります。)
2.会社役員の休業損害の算定方法について
会社役員が交通事故に遭った場合、休業期間中に減額された役員報酬のうち、労務対価部分に限って休業損害が認められるというのが一般的な考え方です。
そのため、交通事故によって会社役員が休業したとしても、役員報酬が減額されていなければ、休業損害はそもそも認められません。
例えば、役員報酬規程において、欠勤中の役員報酬を減額又は不支給にする旨の規定があり、それに従って休業中の役員報酬を減額又は不支給としている場合には、会社役員にも休業損害が認められます。
しかし、休業期間中に減額された役員報酬全額が休業損害となるわけではありません。
役員報酬には、①実際の労働の対価としての労務対価部分と②現実の労働の有無にかかわらず支払われる利益配当部分が含まれており、休業損害として認められるのは①の労務対価部分だけと考えられています。
では、役員報酬のうち、①の労務対価部分はどのように判断されるのでしょうか。
一般的には、会社の規模(同族会社かどうか)・利益状況、当該役員の地位・職務内容、年齢、役員報酬の額、他の役員・従業員の職務内容と報酬・給料の額(親族役員と非親族役員の報酬額の差異)、事故後の当該役員他の役員の報酬額の推移、類似法人の役員報酬の支給状況等を参考にして、判断されますが、以下のような傾向があります。
◆雇われ役員の場合は役員報酬の全額が労務対価部分と判断されることが多く、名目的な役員に過ぎない場合には、労務対価部分が存在しないと判断される傾向にあります。
◆交通事故に遭った役員の職務内容と他の役員や従業員の職務内容を比較して、他の従業員以上の業務を行っている場合には、役員報酬の全額又は大半が労務対価部分と判断され、職務内容に差がないのに交通事故に遭った役員のみが高額な役員報酬を得ている場合には、一定の割合が労務対価部分と判断される傾向にあります。
◆賃金センサス(平均賃金の金額)と役員報酬を比較し、役員報酬が賃金センサスよりも低額である場合に役員報酬の全額を労務対価部分と判断したり、役員報酬の方が賃金センサスより高額である場合は、賃金センサスとも比較しながら、役員報酬の一定割合を労務対価部分と判断することもあります。
以上を踏まえて、裁判所では、名目的な役員でない限り、概ね50~100%の範囲で①の労務対価部分を判断していることが多いようです。
3.会社に生じた損害の請求
会社の役員が交通事故で休業することによって、会社自体に損害が発生したとして、以下のような場合には、会社が加害者に対して損害賠償請求を行うことができることがあります。
① 会社が交通事故で休業している役員に対し役員報酬を減額することなく全額支給していた場合
② 役員が交通事故で休業したために、事業活動に支障を来たし、会社の営業利益が減少した場合や代替労働力や業務を外注した費用がかかった場合
①の場合、会社役員に発生した休業損害を会社が肩代わりして支払ったものとして、労務対価部分については、会社が加害者に請求できると考えられています。
②の場合、基本的には、会社が加害者に請求できないと考えられています。
ただし、会社と役員との間に経済的一体性が認められる場合(典型的には個人が法人成りした場合)には、会社が加害者に請求できることがあります。
4.おわりに
上に見てきたとおり、従業員が交通事故に遭った場合に比べて、会社役員が交通事故に遭った場合には、休業損害の算定方法や会社が加害者に損害賠償を請求することができる場合があるなど、複雑な問題があります。
もし、会社役員の方が交通事故に遭ってしまった場合には、弁護士までご相談ください。
以上
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