弁護士法人PRO | 人事 労務問題 中小企業法務 顧問弁護士 愛知 名古屋 | 伊藤 法律事務所
弁護士コラム
Column
Column
公開日:2024.5.10
人事・労務転籍命令の有効性
弁護士法人PROの花井宏和です。
転籍は、雇用調整、中高年齢者の処遇、関連企業への経営・技術指導等の目的で行われます。
使用者が人事権の行使として転籍命令をしても、労働者がこれを拒否しトラブルとなり訴訟に発展することもあります。
また、転籍命令に従わないことを理由に解雇をすると、解雇の有効性を巡ってトラブルに発展する可能性があります。
このコラムでは、転籍命令の有効性について解説します。
転籍命令の有効性を巡って自社の従業員とトラブルになった場合や転籍命令を巡るトラブルを未然に防ぐために、自社の体制に問題がないかを確認したい場合には、弊所にお気軽にご相談ください。
1.転籍とは
転籍とは、労働者が自己の雇用先の企業から他の企業に籍を移して当該他企業の業務に従事することをいいます。
現在の会社を辞めて、他企業の労働者になるということです。
転籍は、転籍元との労働契約の終了を伴うため、原則として労働者の個別的合意が必要です。
転籍の場合には一方的な命令はそもそもできません。
2.転籍命令を命ずることができる場合
転籍命令は、従前の転籍元企業との労働契約を終了させ、転籍先の企業との労働契約を新たに締結するものです。
そのため、転籍命令には労働者の個別的同意が必要であり、事前の包括的な同意では足りません。
たとえば、就業規則や労働契約上の包括規定に、「会社は、社員に対して業務上必要のある場合には、転籍を命じることができる。社員は正当な理由なくこれを拒むことができない。」と規定されていたとします。
かかる規定を根拠に転籍命令を命ずることができるでしょうか。
転籍は、転籍元との労働契約の終了を伴うため、労働者の個別的同意がその都度必要であるというのが判例の見解です。
したがって、上記のような就業規則や労働契約上の包括的規定があったとしても、かかる規定に基づいて転籍命令を命ずることはできません。
使用者が労働者に転籍命令を命ずるには、転籍命令の都度、労働者の個別的同意が必要です。
もっとも、就業規則等に上記のような包括的な規定があることに加えて、転籍先企業が明示されており、転籍先の待遇に対する十分な配慮がなされ、実質的に労働者に不利益とならないような場合には、転籍についての労働者の個別的同意がなくても転籍命令が有効となる余地があります。
3.労働者が転籍命令に従わない場合
上記のとおり、転籍命令には原則として労働者の個別的同意が必要です。
労働者が同意をしない場合に、転籍命令の拒否を理由に当然に解雇をすることはできません。
有効に解雇をすることができるかは、解雇権濫用の法理により厳格に判断されます。
そのため、転籍命令に従わないことを理由に安易に解雇をすることは控えるべきです。
解雇権濫用の法理については別コラムにてご説明します。
4.転籍命令が無効になる場合
転籍には、労働者の個別的同意が必要です。
そのため、下記のような場合には、当該転籍命令は、命令権の根拠を欠くものとして無効となります。
5.まとめ
転籍命令を命ずるには、原則として転籍の都度労働者の個別的同意が必要です。
個別的同意のないまま、就業規則等の包括的な根拠規定に基づいて転籍命令を命ずることは原則としてできません。
転籍命令を命ずるには事前に労働者の個別的同意を得るようにしましょう。
労働者が転籍命令に従わないことを理由に解雇をしても、解雇が無効とされる可能性が高いです。
転籍について労働者の個別的な同意が得られない場合は、就業規則等に転籍についての包括的な規定があることに加えて、転籍先における労働者の待遇に十分な配慮をし、労働者が実質的に不利益を被らないように配慮する必要があります。
もし、転籍命令の有効性や自社の体制について不安がある場合には、お気軽にご相談ください。
今回は転籍命令の有効性についてお話しました。
労働者の転籍に限らず、人事・労務でお困りの場合にはお気軽にご相談ください。
オンライン会議・
チャット相談について
まずはお気軽に、お電話またはフォームよりお問い合わせください。