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公開日:2024.6.7
企業法務反社会的勢力排除に関する覚書
弁護士法人PROの伊藤崇です。
この記事では、取引基本契約書の中に盛り込まれることが多い【反社会的勢力排除条項】(略して「反社条項」と呼ぶこともあります)について解説をしております。
弊所HPに開設している契約書ダウンロードページにおいても【反社会的勢力の排除に関する覚書】をご用意しておりますので、下記解説を踏まえながらご利用いただければ幸いです。
契約書ダウンロードページ:https://i-l.info/contracts/
1.反社会的勢力排除の要請および指針
各種法改正や警察活動により反社会的勢力の影響は年々低下して来ましたが、現在においても依然市民生活の脅威となり続けています。
反社会的勢力が関与していると思われる特殊詐欺事件やマネーロンダリング事件はますます巧妙化しており、 企業が知らない間に反社会的勢力の関係者と取引を行ったり、便益を供与するケースも多く見られるようになりました。
企業には、これら反社会的勢力に活動資金や便宜を提供することがないよう、 企業の経済活動から反社会的勢力を排除することが強く求められています。
企業に対する反社会的勢力排除に関する要請や指針は、国、地方公共団体および民間の経済団体や業界団体などから複数出されています。
一例を挙げると、以下のとおりです。
国 : 企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
地方公共団体 : 自治体制定の暴力団排除条例
経済団体等 : 企業行動憲章(経団連) その他各種業界団体の指針
2.契約における反社会的勢力排除条項の必要性とその内容
(1)反社会的勢力排除条項の必要性
社会から企業に対する反社会的勢力排除の要請は強く、また、企業防衛の観点からも企業が反社会的勢力との関係を絶つ必要性が大きいことは言うまでもありません。
そのために 最も望ましいのは、 取引を開始する段階で反社会的勢力とは契約を締結しないことです。
しかし、反社会的勢力の偽装工作はますます巧妙化しており、一般事業者のふりをして接近してくる反社会的勢力を取引開始段階で見抜くことは容易ではありません。
取引開始段階でそうとは知らずに反社会的勢力と契約関係に入ってしまった後、取引実施後しばらくしてから取引相手が反社会的勢力であることの疑いが生じることも実際にあることです。
そうした場合、 契約の中で約定がなければ、契約関係を解消することができるかどうか不明確となり、悩ましい事態に陥ってしまうことになります。
そのため、契約締結段階で、契約書内に反社会的勢力排除条項を盛り込んでおくことが必要になります。
(2)必要な契約条項
具体的には、以下のような内容の条項を盛り込むことが考えられます。
ア 表明・保証条項
取引当事者が反社会的勢力ではないことについて、相互に相手方に表明し、確約する条項が必要です。
仮に相手方が反社会的勢力であった場合には、直ちに本条項への違反となり、 契約関係の解消(解除)の根拠になります。
(文例)
甲及び乙は、相手方に対し、自己、代表者、責任者又は実質的に経営権を有する者が、暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者であること、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動等標ぼうゴロその他の反社会的勢力(以下、併せて「反社会的勢力」という。)ではないことを保証する。
イ 無催告の契約解除条項
取引の相手方が反社会的勢力であることが判明した場合には、 即時無催告で契約を解除できる旨の規定を設けておく必要があります。
無催告で解除できることにすることで催告の有無や催告期間の長短、催告期間中の権利行使への対応を要するか、等の諸問題の発生を未然に防止することができます。
(文例)
甲又は乙は、相手方が次の各号の一にでも該当したときは、何ら催告することなく直ちに甲乙間における全ての契約の全部又は一部を解除することができる。
また、取引の相手方が反社会的勢力である疑いはあるものの、反社会的勢力であると断定できるか悩みが生じることは実務の場面では生じがちです。
そこで、反社会的勢力であると推測されるような粗暴行為や名誉信用毀損行為等が生じた場合であっても契約解除を可能にしておくのが適切であり、 解除事由には 表明保証条項違反以外の事由も列記しておくことが望ましいと言えます。
(文例)
甲又は乙は、相手方が次の各号の一にでも該当したときは、(中略)契約の全部又は一部を解除することができる。
(1)相手方が反社会的勢力であったとき
(2)代表者、責任者、又は実質的に経営権を有する者が反社会的勢力であったとき
(3)自ら又は第三者を利用して、他の当事者に対して、自身が反社会的勢力である旨を伝え又は関係者が反社会的勢力である旨を伝えたとき
(4)自ら又は第三者を利用して、他の当事者に対して、詐術、暴力的行為又は脅迫的言辞を用いたとき
(5)自ら又は第三者を利用して、他の当事者の名誉や信用等を毀損し又は毀損するおそれがある行為をしたとき
(6)自ら又は第三者を利用して、他の当事者の業務を妨害した場合又は妨害するおそれのある行為をしたとき
ウ 契約解除の場合の免責条項
契約解除により相手方に損害が発生したとしても、その損害を賠償する義務がないことを規定しておくと、躊躇なく契約解除に踏み切れます。
他方で、契約解除によって自社に損害が生じることも想定しておくべきで、そうなった場合に相手方に対して損害賠償請求ができる旨も規定しておくことが望ましいです。
(文例)
甲又は乙は、前条に基づき甲乙間における全ての契約の全部又は一部を解除した場合、名目の如何を問わず当該解除により相手方に生じたいかなる損害の賠償義務も負わないものとする。
なお、当該解除は、解除権者が被った一切の損害について、解除権者が被解除者に対してその損害を賠償することを妨げない。
3.締結済みの契約書に反社会的勢力排除条項がない場合の対応について
契約締結時期等によっては、現在締結中の契約書に反社会的勢力排除条項が盛り込まれていないことも想定されます。
反社会的勢力排除条項のためだけに契約書の再締結を取引の相手方にお願いすることには躊躇を感じられる企業様も多くおいででしょうし、事務負担の面からもできれば避けたいところです。
こうした場合には、反社会的勢力排除に特化した覚書だけを締結する、という方法で対応することができます。
多くの企業は反社会的勢力ではありませんから、このような覚書を締結したとしても自社に悪影響が生じるものではなく、覚書の締結に難色を示す企業は非常に少ないものと思います。
弊所HPに開設している契約書ダウンロードページにおいても【反社会的勢力の排除に関する覚書】をご用意しておりますので、本コラムもご参考にしていただきながらご利用いただければ幸いです。
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