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公開日:2021.4.27
企業法務企業における知的財産戦略について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は「企業における知的財産戦略」について取り上げます。
1.知的財産戦略の重要性
知的財産とは、人間の知的創造活動によって生み出されたもの(発明や著作物など)、事業活動に用いられる商品やサービスの表示(商標や商号など)、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報(営業秘密など)のことです。
知的財産の特徴として挙げられるのが、「もの」とは異なり、「財産的価値を有する情報」であるということです。情報は、誰でも簡単にまねできるという性質をもっていて、しかも、情報を利用しても消費されることがないため、多くの人が同時に情報を利用することができます。
経済産業省の調査によれば、S&P500(※)の企業価値に占める無形資産の割合は、1975年には17%に過ぎなかったのに対し、2015年には87%にまで増加しています。
知的財産を含む無形資産の割合の増加により、無形資産に投資していくことが、企業価値を持続的に成長させるために不可欠な要素となっており、企業経営における重要な経営課題になっています。
そのため、企業において、知的財産を活用して企業価値を高めるために、イノベーションの創出、事業競争力の強化、組織・基盤の強化等を図る戦略のことを知的財産戦略と言います。
知的財産戦略の視点や実際の事例は、特許庁が2019年6月に発行しました「経営における知的財産戦略事例集」や、2020年6月に発行しました「経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】」が参考になります。
※米国に上場する主要500銘柄の株価指数のことを言います。
2.知的財産戦略策定のポイント
(1) 公開か非公開かの選択
知的財産の特徴を踏まえると、「情報を守る」ためには、基本的には、
①情報を公開の上、権利化するか(情報の権利化)、
②情報をノウハウとして秘匿するか(情報の秘匿化)、
という2つの選択肢しかありません。
発明(技術情報)を例にとると、
<①情報の権利化のメリット>
・特許権という排他的独占権が発明(技術情報)に与えられるため、発明(技術情報)が登録されていることを知らずに他の企業が発明(技術情報)を利用したとしても、差止めや損害賠償の請求ができます。
・発明(技術情報)を利用したい企業に許諾を与えて実施料を受け取ることができます。
<①情報の権利化のデメリット>
・出願公開によって必ず発明(技術情報)が公開され、特許権の保護期間経過後は自由に発明(技術情報)が利用されてしまいます。
・公開された発明(技術情報)をもとに、さらなる技術開発が行われ、発明(技術情報)が陳腐化するおそれがあります。
・特許取得に費用(弁理士費用、特許登録料)がかかります。
・特許権侵害時の権利行使に当たっては、侵害者の技術の解析が必要となるため、分析コストを特許権者が負担しなければなりません。
<②情報の秘匿化のメリット>
・発明(技術情報)が外部に漏れない限り、模倣される心配がありません。
・他の企業では模倣できないため、発明(技術情報)を保有する企業に製品の加工等を頼らざるを得ません。
<②情報の秘匿化のデメリット>
・発明(技術情報)が外部に漏れた場合、特許権のように独占的な保護が与えられません。
・全く同じ発明(技術情報)を他の企業が偶然開発した場合には、権利行使ができません。
以上のメリット・デメリットを踏まえて、企業ごとに知的財産戦略を考えていく必要があります。
一般的には、製品やサービスが市場に出回り、出回った製品等の解析が容易な発明(技術情報)は、権利行使の際の技術分析が容易なため、権利行使の分析コストがかからず、①情報の権利化に向いています。
他方、工場内だけで実施される発明(技術)等の解析が困難な発明(技術情報)は、権利行使の分析コストがかかり、権利行使が困難になるため、②情報の秘匿化に向いています。
(2) オープン&クローズ戦略
オープン&クローズ戦略とは、技術などを秘匿又は特許権などの排他的独占権で保護するクローズ・モデルの知的財産戦略に加え、他社に公開又はライセンスを行うオープン・モデルの知的財産戦略を取り入れ、自社利益拡大のための戦略的な選択を行うことを言います。
オープン戦略によって、自社技術を標準化し、市場を拡大させるとともに、拡大された市場内においては、他社では容易に実現できない高度な技術をコア技術として秘匿し、自社で独占することで、市場内における自社のシェアを拡大することが可能になります。
例えば、アップル社のiPhoneは、オープン&クローズ戦略の成功例と言われています。iPhoneの開発環境はオープン標準化されていて(オープン戦略)、世界中の企業がアプリ開発に参入していますが、iosのコア部分や製品デザインはアップル社が独占すること(クローズ戦略)で、市場拡大と市場内におけるシェアの拡大を両立したと言われています。
(3) ブランド戦略
ブランド戦略とは、自社の製品やサービスのブランド価値を維持・向上させるための戦略のことです。
ブランド価値の向上は、顧客に対してより良いイメージを与え、他社に対して事業競争を優位に進められるようになるだけでなく、資金調達や人材確保が容易になるといった組織・基盤の強化にもつながります。
ブランド価値を向上させるためには、排他的独占権である商標権を取得することで、他社による権利侵害から自社ブランドを保護し、他社への商標のライセンスにおいては、自社のブランドの適切な使用を遵守させる必要があります。
また、最近では、SDGs(※)への取組みが、グローバルな投資家からの高い評価を得る上で重要視されるようになっているため、SDGsを積極的にブランド戦略に取り込み、ブランド価値の向上を図る動きも進んでいます。
※2015年9月の国連サミットで採択された2030年までに世界で達成すべき17項目の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)のことを言います。
企業が持続的に発展していくためには、知的財産戦略を考えていくことが重要です。この機会に、自社の技術情報の取り扱いについて検討してみてはいかがでしょうか。
以上
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