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公開日:2026.6.5
人事・労務固定残業代は「払えば終わり」ではない―導入・運用で注意すべきポイント
弁護士法人PROの弁護士 元木琢己です。
残業代の支払いには、残業時間を管理したうえで、法定の割増率を加えて計算するなど、一定の手間がかかります。
そのため、あらかじめ一定額の残業代を支払う「固定残業代」を採用している会社も少なくありません。
しかし、制度設計や運用を誤ると、 「残業代を支払っていたつもりだったのに、実は未払いだった」という問題が生じやすい制度でもあります。
そこで、固定残業代を導入・運用する際に注意すべきポイントを解説します。
1.固定残業代とは
会社が従業員に時間外労働・休日労働・深夜労働をさせた場合、労働基準法上、一定額以上の割増賃金を支払う必要があります。
もっとも、割増賃金の支払方法は、必ずしも毎月の実際の残業時間に応じて後払いする方法に限られません。
法律上必要な金額以上の割増賃金が支払われているのであれば、あらかじめ一定額を支払う方法も許されています。
そこで、法定の割増賃金として一定額を支払うことについて、あらかじめ従業員と合意し、その一定額を毎月支払う方法が「固定残業代」です。
固定残業代には、基本給の中に含める「基本給組込み型」と、基本給とは別に「固定残業手当」などの手当として支払う「手当型」といった種類があります。
2.固定残業代でトラブルになりやすい理由
固定残業代は、特に次の3点でトラブルになりやすい制度です。
そのため、固定残業代を導入する際には、 次の3つのルールを守ったうえで、その導入について従業員との間で明確に合意する必要があります。
3.ルール①:法定の割増賃金を下回らないこと
固定残業代を支払っていても、実際に発生した割増賃金の額が固定残業代を超える場合には、その超過分を別途支払う必要があります。
たとえば、20時間分の残業代として固定残業代を支払っていたとしても、実際には30時間の残業があった場合、固定残業代では10時間分が不足します。
この不足分は、会社が別途支払わなければなりません。
固定残業代は、「これを払っておけば、どれだけ残業しても追加の残業代は不要」という制度ではないということです。
そのため、固定残業代を超える割増賃金が発生した場合には、会社に追加残業代を支払う義務があることを前提に、その旨をあらかじめ合意しておくことも必要です。
厚生労働省も、求人・募集の段階では、固定残業代を超える残業代については別途支給する旨を明示しておく必要があるとしています。
したがって、雇用する際には、 雇用契約書や労働条件通知書においても、固定残業代を超える残業代については別途支給する旨を明確にしておくべきでしょう。
4.ルール②:通常の賃金と残業代を明確に分けること
固定残業代で重要なのは、「通常の労働時間に対する賃金」と「残業代として支払われる部分」を明確に区別することが必要です。
これは、支払われた賃金のうち、どの部分が残業代として支払われているのかが区別できなければ、残業代が適切に支払われているかを労働者が判断できないためです。
たとえば、単に「基本給には割増賃金を含む」と記載するだけでは、基本給のうち、いくらが通常の賃金で、いくらが残業代なのか分かりません。
そのため、固定残業代を導入する場合には、次のように金額や時間数を明確にしておく必要があります。
固定残業代を導入する際には、少なくとも、固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代の金額、何時間分の割増賃金に当たるのかを、給与明細などで明確にしておきましょう。
5.ルール③:手当の趣旨を明確にすること
「業務手当」「営業手当」「運行手当」などの名称で支払われている場合、その手当が残業代なのか、職務内容に対する手当なのかが分かりにくくなります。
そうすると、労働者にとっては、残業代が支払われているのかどうか、判断できなくなってしまいます。
そのため、固定残業代を手当として支払う場合には、その手当が残業代の支払いに充てられるものであることが分かるよう明確にしておく必要があります。
また、手当の名称が「時間外手当」であっても、それだけで必ず固定残業代として有効になるわけではありません。
残業代以外の趣旨の賃金が混ざっている場合、固定残業代として認められないリスクがあります。
特に、固定残業代として支払っている金額が、実際の法定割増賃金と比べて大きすぎる場合には注意が必要です。
残業代以外の賃金が含まれていると判断されてしまい、固定残業代全額が割増賃金の支払いとして認められない可能性があります。
そうなった場合、支払ったと思っていた残業代は未払いとなるうえ、基本給と固定残業代を合わせた金額が、通常の賃金と判断される可能性もあります。
結果として、想定していたよりも高い基礎賃金をもとに、数年分の未払残業代を追加で支払うこととなります。
固定残業代は、適切に設計すれば、給与体系を分かりやすくする方法の一つです。
しかし、上記のルールを守らずに導入すると、支払ったつもりの残業代が、法的には払われていないと評価され、かえって未払残業代のリスクを高めることになります。
「固定残業代を払っているから大丈夫」と考えるのではなく、実際の労働時間を把握し、必要な割増賃金と固定残業代との差額を確認し、賃金の内訳を明確にしておくことが重要です。
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